歌うしらみがおりました

破戒の歌うしらみがおりましたのレビュー・感想・評価

破戒(1948年製作の映画)
4.5
『不死鳥』が当時の集大成だと思ったけど、今作では空間を完璧に支配している。ここから木下惠介の全盛期が始まる。
『我が恋せし乙女』で象徴として使った満月をこちらでも切なさ、哀しさの象徴として印象的に登場させた直後、男はハッと振り返り、ランタンの火は消え、カメラは無人の景色をぐわんぐわんと動きながら映し出す。このケレン味が感傷を垂れ流す物語に抑揚を付けている。琴の件でも同じ様な演出が付けられる。こうした手法は大林宣彦のそれに似ている気がする。
奥の廊下を歩き、一旦フレームアウトしてこちらにやってくる場面は、空間と時間とをイコールで結びつけるようで好き。横移動も漏れなく気持ちいい。
ただそれにしても泣きすぎ。感傷に流されすぎ。最後子供たちが走ってくるのは気持ち悪い。それが木下惠介印であると言われればそうなのかもしれないけど。これが露悪的と言いたくなるほど気の狂ったテンションまで到達したのが『女の園』や『日本の悲劇』。