くりふ

007/ムーンレイカーのくりふのレビュー・感想・評価

007/ムーンレイカー(1979年製作の映画)
3.5
【スパイスは“ジョーズ2”】

アマプラで見かけ、久しぶりに見返したくなったので。

この頃は007、封切りは正月映画枠でしたね。当時は子供だったしSFブームの渦中…SWや未知との遭遇などと比べて見たため、トホホなトンデモ作品として記憶されました。

が、再見したら記憶より心地よく、少しオモロイ!任務遂行ってより、スリリングな休暇を楽しんでいるノリですが。…たぶんこれは、時を経てこそ得られる鮮度…映画ならではの!

今回はまず、タイトルにまつわる話を知ってへー、と思いました。

SFブームに便乗すべく選んだ原作らしいが、宇宙に絡むのはタイトルだけ。原作でも同じ名の悪役は登場するが、悪事は地上でのみ。大枠だけ使って宇宙仕様に変えてしまった。

原作通りである「ムーンレイカー」とは、“水面に映った月を熊手で掻き寄せるアホ行為”を表す英国の古典的隠語で、編集者がフレミングを説き伏せて決めたそうだ。

語の元となった伝承が二転し面白いのですが、そこから映画を振り返ると、ムーンレイカーとは、まやかしを利用し欲を満たそうとする映画制作者にも、観客にも思えてくるのです。

で、中身は、宇宙に行く前までが、マッタリときどきピリリの旅として、私は楽しかった。

何故カリフォルニア?に始まり、ベニス、リオ、アマゾン…程よく笑える追撃を挟み、観光つまみ食い的な面白さ。お陰で、なかなか本質に近づかないが。…半分過ぎてもwww

ボンドガール、美的には粒ぞろい。メインのロイス・チャイルズは一応、ひとり立つ女として描かれ頼もしいですが、結局はボンドのベッドにあっけなく。他のガールズも同様で呆れるが、当時はこれが男らしくカッコイイと思い、思わされていた…て、ちょちゾッとする。

特に、いくらMなO嬢出身とはいえ、コリンヌ・クレリーは扱いヒドい。ボンドに使い捨てされてああなっちゃうワケで、ああしれっと描くのはミソジニーとさえ思います。

一方、その他の顔見せガールズには、華添え要員の裏をかく仕掛けがあって、ちょち感心。

当時よほど人気あったか、ジョーズが再登場しますが、効いてますね!観光と美女と宇宙と…大枠もう一つの柱にさえなっている。彼は最後まで“サイレント”でよかったと思うけど。

ジョン・バリー節は通常営業ですが、本作はむしろ、音楽が鳴らない箇所が逆に、ものを言っていて興味深い。リオの裏路地で、ゆっくり脅威が近づく画など、らしからぬ怖さ!

特撮が丁寧なのも感心。SWより、2001を引きずる画に英国を実感する。仕上がりレベルは最先端のアメリカ製よりだいぶ落ちますが、決して悪くはないと再確認しました。

SFブームに便乗しても、腐っても007だなーと。…“非常停止ボタン”には笑ったが!

主題歌がシャーリー・バッシーだったと『サウンド・オブ・007』を見るまで忘れてました。歌った本人が嫌いと断言していましたが、ヌルい中身には合っていたし、モーリス・ビンダーによるOPも、女体はシルエットに抑えスッキリ味。むしろ好感もてました。

で、宇宙に行っても相変わらずの007に、Qが放つ最後のキメ台詞…そのオヤジギャグが、本作を見事に要約しておりました!

<2023.3.15記>
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