ただのすず

夢売るふたりのただのすずのレビュー・感想・評価

夢売るふたり(2012年製作の映画)
4.0
「自分の光を失った星たち」

結婚詐欺をする夫婦の話。
西川監督の映画の中で一番分かりやすくてコミカル。
浮気が秒でバレて壁ゴン、不細工な顔でパンを頬張るシーンとか特に好き。
女を騙す話なので色んな女性が登場してそれがみんな良い。
女性の内面を撮るのが本当に上手。
この映画で一番面白いのは妻の里子の心の内を想像することだと思うけど、映画全体を明るく照らしているのは夫の貫也の魅力で主演の二人がいなければ成立しない。相変わらず配役がぴったり。

初見ではもっと貫也を素敵な人だと思っていたけど、今はその善にも悪にも徹することができない中途半端な不完全さがよく見えた。
貫也が魅力的に映るのは里子の内助の功があるから、貴方のその不完全さが魅力なのだと照らしたから。妻が自分をドブネズミのように感じたのは夫の器の狭さもあるような気がする。
燃やした札束をぶち撒いた後に冷静にミンチ発言をしたり、包丁をもって追いかけようとするような熾烈さをすごく美しいと思う。
トイレを抱えて蹲っても、男に縋り付いて泣いても、夢に敗れても、子供なんて産めなくても、身の内の輝きとは全く関係ない、そうして立ち上がって颯爽と一人で歩いている姿がこそ美しい。横断歩道のシーンが眩い、それくらいの気安さで到達できるような気持になる。
私達は星ではない。だから光が本当に失われることはない。
何度だって不完全なままで輝いていられる、そう思える。