ただのすず

静かな雨のただのすずのレビュー・感想・評価

静かな雨(2020年製作の映画)
4.1
記憶は、脳だけではなく、心臓にも、腸、臓器、舌、匂い、習慣、すべてに宿る。
久々に隅々まで幸せな映画を観たって気持ち。
映画の中に、光がずっとさしている。二人が暮らす家の窓からが特に美しい、早朝も、寒い冬の日も、夜明けも、夕焼けも、同じ自然光とは思えないほど表情が豊かで見飽きない。
同じように、雨にも表情があるんだと気づかされる。
静かで、優しくて、あたたかな雨がしとしとと降り注ぐ、言葉とか記憶が少しずつ、いつの間にか心に沁み込んでいくみたいに。ぽろんぽろんと雨粒が零れ落ちてくるようなピアノの旋律がとにかく美しい。
毎朝、二人はあの幸せな雨の記憶からはじまるのだと思うと、この上なく幸せな気持ちになる。絶望の朝ではないんだと思える。だってブロッコリーで喧嘩するくらいだから。たったそれだけの事だと思える。


使い古されたテーマなのに、撮る人のセンスでここまで変わるんだと驚いた。映画がこれほど素敵なら、原作はもっと素敵だろう、楽しみ。