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チャドルと生きるのBOBのレビュー・感想・評価

チャドルと生きる(2000年製作の映画)
3.8
現代イラン映画の巨匠ジャファル・パナヒ監督のベネチア金獅子賞受賞作。

「なぜこんな私に戦いを挑む。なぜこの世を住みにくくする。私の心は戦えるほど強くできてはいない。私の命のガラスに石を投げないで。」

『人生タクシー』以来2作目のパナヒ監督作品。

とても良かった。現代のテヘランを舞台に、イラン人女性が晒される困難や厳しい現実を描いた社会派リアリズム群像劇。

仮釈放中に集団逃走し、警察の目を掻い潜りながら、故郷を目指す18歳の少女👔。同じく集団逃走するも滞在先の自宅を追い出されて途方に暮れる、人工中絶を望む妊娠4カ月の女性。生活苦に耐えかね、心を鬼にして娘を路上に置き去りにした母親🎈。逃亡罪か、何らかの規律違反で刑務所に収監される女性🚬。長回しを多用しながら、リレー形式で4人の女性に密着する。最終的に浮かび上がってきたのは、産婦人科の分娩室で生を授かり、刑務所の監房に行き着くという、絶望的な円環構造だった。実社会で生きることより、刑務所の中に留まることを選択するラストが皮肉だ。

オープニングシークエンスが巧い。部屋中に響き渡る出産中の女性の叫び声は、抑圧的な社会に生きる女性の悲痛な叫びのようにも聴こえたし、男の子ではなく、女の子が生まれ(てしまっ)たことに嘆く女性親族たちの姿は、イラン人女性がこれから歩む過酷な運命を予感させた。

イランを生きる女性達が直面する現実を思い知らされる。身分証か同伴者がいなければ、女性一人ではどこにも行けない。嘘で誤魔化さなければバスのチケットは買えないし、タクシーで市外へ出ることもままならない。個人レベルではどうしようもない、宗教的思想に基づく社会構造の問題。

・ベネチア金獅子賞やユニセフ賞など、世界中で絶賛された本作だが、反政治的な作品だとして、イラン国内での上映は禁止されている。

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