サイレント期最大の名優”千の顔を持つ男”ロン・チェイニーの生涯を描く伝記映画。チェイニーを演じるのはジェームズ・キャグニー。
パントマイム芸人のチェイニー(ジェームズ・キャグニー)は妻の歌手クリーヴァに、両親が聾唖者であることを明かせずにいた。妊娠の報告で両親に挨拶に行った時に初めて事実を知った妻は、大きなショックを受けそれから二人はギクシャクし続ける。そしてある日、妻は服毒自殺を計る。。。
ロン・チェイニーもギャグニーも好きな役者なので、楽しみに鑑賞し最後は目頭が熱くなった。IMDbで調べると、事実とは異なる点があることをマニアが批判していたが、そんなことは織り込み済みであり、事実が知りたいだけなら資料を読めば済むことだ。
聾唖者の両親に育ててもらった運命が、チェイニーのパントマイムや演技の礎となり、彼がこだわり続けた不遇者役への共感を育んだ。そのことを知らしめただけでも本作の意義は十分である。息子のロン・チェイニー・ジュニアも然りで、今後「狼男」(1941)など彼のモンスター映画を観る際には本作を思い出すだろう。
ギャグニーはこの時58歳で、若かりしチェイニーの勢いを演じるには少々角が丸い感じだったが、晩年の芝居にはさすがの円熟味が感じられた。ブロードウエイ仕込みのタップにパントマイム、個性派のスター街道を歩んてきたという共通点もあり、ハマリ役だったと思う。ギャグニー版の「ミラクルマン」「ノートルダムのせむし男」「オペラの怪人」も個人的には嬉しい演出だった。
1930年、チェイニーはホラー映画ブームの幕開けとなる「魔人ドラキュラ」の主演に内定していたが、咽頭ガンのため急逝した。享年47歳。