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秒速5センチメートルのkouのレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
3.0
《進むスピードの違い》
とてもセンチメンタルでもあり、そしてロマンチックでもあるが基本的には現実的。美しきその映像と、僕とあなたしかいないのだというその世界観、新海誠監督らしい代表作だと思う。

短編三作で作られている作品で、貴樹と明里の出会いから、遠く離れてしまった明里に会いに行く一話。鹿児島に引っ越した貴樹に恋心を抱く花苗が告白を決意する二話。社会人になった貴樹が過去への思いを振り切れずいる三話。美しい景色と対照的に描かれるのは日常に寄り添ったラストだ。その景色が美しければ美しいほど、その揺れる思いは切なく映る。時にその対比は残酷だ。ロケットが孤独の中を純粋に進んでいくのとは対照的に、現実の心はそうはいかない。

監督自身が語っているのは何かのスピードというのを映像化したかったという事だ。桜の舞い散るスピード、そして電車の進むスピード、雪の降る様、雨の降るしずく。それらが心の距離とスピードに結びついて、不思議な感覚を生み出している。何かに近づく、というだけでなく、その流れは止まったりもする。消えてしまったりもする。

誰もが感じたことのある哀愁と、自分自身の青春と、そして現実と。美しき季節の中に埋もれたそれらの感情を掘り起こすようなそんな作品だった。三話の「one more…」が流れる部分はノスタルジックな盛り上がりのある部分だった。
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