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バットマン ビギンズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

バットマン ビギンズ(2005年製作の映画)
3.7
 温室に歩み寄る少年時代のブルース・ウェイン(ガス・ルイス)は、レイチェル(エマ・ロックハート)が見つけた石器の鏃を奪い取り、逃げようとした瞬間、蔦で隠れていた古い井戸に落下する。高さは10mはあるだろうか、水の滴る仄暗い穴の奥に見えた微かな光、だが彼は無情にもその薄暗い密室空間でコウモリの大群に襲われる。父親のトーマス・ウェイン(ライナス・ローチ)はロープを使い、息子を引き上げる。執事のアルフレッド・ペニーワース(マイケル・ケイン)は心配そうにその姿を見つめている。クリストファー・ノーランお得意のフラッシュ・バックするトラウマが再度ブルース・ウェインを襲うのは、父親のトーマスと母親のマーサ(サラ・スチュワート)とオペラを観劇した時に他ならない。オペラの演出は、幼少期に古い井戸で彼を襲ったコウモリのトラウマを目覚めさせ、両親は息子の手を引き、オペラ座を後にする。その直後、劇場横の裏通りで両親は暴漢ジョー・チル(リチャード・ブレイク)に襲われ絶命する。この二重のトラウマがブルース・ウェインに神経症的な症状をもたらすのは云うまでもない。14年後、チルはゴッサム・シティマフィアのボス、カーマイン・ファルコーニ(トム・ウィルキンソン)に不利な証言と引き換えに釈放される。復讐のためチルを殺害しようとするブルースだったが、ファルコーニの暗殺者がチルを殺害する。

 クリストファー・ノーランの『ダークナイト』トリロジー第一弾。幼少期から現在までのブルース・ウェインの歩みを時系列に併せて見せる物語は、世界中で「自分探し」の旅を続ける主人公の姿を巧みに挟み込みながら描かれる。正義のために「悪」を探求する男の元に、彼のメンターとなるヘンリー・デュカード(リーアム・ニーソン)が現れる。青い花を見つけて、ヒマラヤの山を登れば悟りが開けると云うヘンリーの教えの元、悪と戦う方法を見つけ出そうとする主人公は、影の同盟を率いるラーズ・アル・グール(渡辺謙)と出会う。『バットマン ビギンズ』の題名通り、ここでは過去のトラウマを抱えた主人公が、なぜバットマンになったのかを丹念に描く。アメコミ・ヒーローを代表するスパイダーマンやスーパーマンのように、バットマンは超人的な力を持たない。彼はルーシャス・フォックス(モーガン・フリーマン)が手掛けたガジェットの力を借りることで、自らの正義を信念に戦うのだ。ジャグジー風呂でレディと戯れ、6代続くウェイン家の屋敷で夜な夜なパーティを繰り広げる男の軽薄な一面はしかし、同じく正義の裁きをしようとするレイチェル・ドーズ(ケイティ・ホームズ)やジェームズ・"ジム"・ゴードン(ゲイリー・オールドマン)の後方支援に回る。だが悪を探求することで正義の正当性を担保しようとしたブルースの病巣を照らすアメコミ屈指のヴィランの登場は、次作まで待たねばならない。
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