改名した三島こねこ

バットマン ビギンズの改名した三島こねこのレビュー・感想・評価

バットマン ビギンズ(2005年製作の映画)
3.8
『バットマン』のなにより素晴らしいところはゴッサムシティという舞台なのですよね。確実に善と悪の彼岸は存在しながらも、その境界線がひどく曖昧になっている。T.フィリップスの『ジョーカー』で明示されたように、視点次第で善も悪となりえる。主人公ブルース・ウェインやその父についてもそれは適応されて、だからこそ全てのキャラクターが魅力的。

本作でノーラン監督がこなした評価点はその魅力的な舞台の料理と、次回作『ダークナイト』におけるバットマンの矛盾を仕込んだことでしょう。
他のスーパーヒーローであれば一般に善として描かれた富裕層側を善とも悪とも二面的に描き、一方悪人であるクレイン達は色気すら漂わせて魅力的に描く。このバランス感覚こそがノーラン監督の一番の長所で、単に下劣で露悪的な悪役がいないのです。
そしてバットマンについても一方的に善とするのではなくて、未熟さだとか一概に肯定するには稚拙な正当性だとか、そのあたりもキッチリ仕込んでいる。一般に本作は三部作でも評価が低いらしいですが、『ダークナイト』を100%楽しむならば必修科目です。

特にクレインは本作一の名キャラクターと言えるでしょう。キリアン・マーフィーという艶のあるキャスティングのみならず、レザーフェイズのような粗野なキャラクター性と、退場時のコミカルさを一人にうまく混ぜ込んでいる。また普通脇役になりそうな毒使いというのがラスボス的な役割であるというのも意外性があっていい。伝説的な悪役であるジョーカーには及ばないが、彼もまたバットマンの歴史に残る悪役。

しかし本作のゲイリー・オールドマンは買収もされてないし、モーツァルトも聴いてないようで安心しました。あの伝説的な作品から10年経過しているはずですが、まだあのヤク中警官の面影がある。アイツがバットマンの世界に来ていたらもっと混沌としたゴッサムシティになってましたよ。