tacky

晩春のtackyのレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
5.0
紀子三部作の一作目。
私の苦手な、どストレートの小津作品だが、30年ぶりの鑑賞で、とても感動した。
8歳上の兄に、「小津の良さは50歳以上にならないとわからない。」と言われていたが、その意味がやっとわかった。

とにかく、最近の日本映画と違って、心穏やかに観られるし、観終わった後味の良さはとても素晴らしい。私も娘を嫁がせる父親の心情が、痛いほどわかる歳になってきたという事なのだ。
小津だからとか芸術的に観ようとせずに、当時の松竹大船調のホームドラマとして観ればいい。とても心に沁みる作品である。

それでも、素晴らしい構図とショットの応酬で、
能のシーン。全観衆の中で紀子一人が、父の事を思い、能どころで無い心情を表す。
宿のシーン。肝心の話を父にしようとしだが、すでに寝落ちされてしまう紀子に、ポツンとある床の間の壺を何度も写し、これから寂しくなる親子二人の関係を表す。などなど‥
肝心の結婚相手を一切見せず、大事なお見合いや結婚式のシーンまで省き、花嫁姿の紀子の父への感謝の言葉のみで、とても深い感動を呼ぶ、小津の演出は素晴らしい。

この歳になって、昔わからなかったラストシーンのリンゴのシーンが、よく理解できた。これは一人になった寂しさよりも、送り出した安堵感を表しているのであろう。
同時に、作品を観終わって安堵感と幸福感に包まれた自分がいた。
そんな素晴らしい作品である。
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