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炎628のn0701のネタバレレビュー・内容・結末

炎628(1985年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

ナチス・ドイツによって白ロシアの628の村が人もろとも焼き尽くされた史実とその狂気を描いている。事実は映画よりも残酷で冷淡で凄惨なものだ。

この映画では、不幸にも生き長らえ、その結果最悪の事態に巻き込まれていく少年を追う。初めの間は少年はどこにでもいる活発な子どもだったが、映画の最中、地獄を目の当たりにし、焦げ付いたように、表情が悲しみと絶望に打ちひしがれていく。



時代は第二次世界大戦の最中。
少年は砂遊びをして、地面に埋まったものを掘り返していたところ、一丁の銃を見つける。
上空には不審な偵察機が漂い、銃を持つ少年の姿を捉え、不吉を暗示する。

彼は志願して戦争に駆り出されるが、逸れて置いて行かれてしまう。その時はまだ、彼ら子どもの中では戦争というものが、どこか別の世界の事柄だったのだ。

彼は未開の森林で少女に出会い、まるで青春の一コマのような時間を過ごす。雨に身体を清め、踊り回る。

遊びから自宅に帰るように家に戻ると、母も幼い双子の妹もいない。どこかに隠れているのかと思い、湿地を抜け隠れ家に向かうと大勢の村人が息を殺していた。

そこに、丸焼けにされた老人がひとり。
そして少年に呟く。

「お前の家族は、お前が拾ってきた銃のせいで村人諸共殺された。俺もガソリンをかけられ、生きたまま焼かれた。熱くて、苦しくて、あいつ等に殺してくれと頼んでもあいつ等は笑っていた。」

自分のせいで家族と村人が殺され、生きたまま焼かれた。その事実に少年は泥水に顔を突っ込む。



ここから、少年だけでなく、この映画にとっての「戦争とは」ということが説かれ始める。まるで戦争を知らない僕らを首根っこ捕まえて戦場に投げ込んだかのような、衝撃を受ける。
当事者の少年なら尚更である。



少年はその無念と怒りをヒトラーにぶつけるため、命がけの食料調達に参加する。

しかし、ヒトラーに似せたカカシを持ちながら食料調達に出たはいいが、敵軍に見つからないように野を越えるのは至難であった。どこに目があるかわからないからだ。

そして、手頃な牛を見つけたとき、彼らを遠くからショットガンが襲いかかる。少年以外の全員が撃たれて死に、頼みの綱の牛さえも被弾する。

牛は目を左右に振りながら、苦しみに悶て死んでいく。少年は苦しむ姿を目の当たりにしながらも、命からがら逃げていく。

濃い霧が出て、逃げるのに好機ではあったが、少年には食料調達のミッションがある。農夫が連れて歩く馬を持って帰ろうとすると、遠くの方からドイツ兵の車の音が聞こえる。

それは紛れもなく絶望の音だった。

少年は近隣の村に逃れる。
しかし、その村にドイツ兵の大群が押し寄せ、村人を一つの納屋に押し込む。

窓から女だけを出せだとか、子ども以外は出ろだとか無茶苦茶なことを言って、納屋から一定数外に出させるとドイツ兵は無慈悲にも火炎瓶と火炎放射器で納屋ごと燃やし尽くす。

さらに遠くから小銃、ショットガン、炸裂弾を放ち、中にいるすべての者を殺す。

そこでも少年はドイツ兵の眼中になく生かされる。頭に銃を突きつけられた記念写真を撮られる。その顔は怯えきって絶望した顔だ。

生かされた少年は泥と埃にまみれても瞬きさえしない。精魂尽き果てたのだ。

少年は事後、生きながらえた他の村人や精鋭隊たちと捕えられたドイツ兵数名を銃殺する。

だが終わったわけではない。
股の下から大量出血し、口から血の泡を吹く少女が現れる。

少女の目も輝きを失い、死んだように少年を見つめる。少年は額に深いシワが刻まれ、目は見開き、唇は荒れ果て、互いに廃人のように打ちひしがれる。

少年は泥に塗れたヒトラーの写真を撃つ。

少年の銃声で時代が逆行し、破壊された塔が直り、燃え盛る炎が収まっていく。次から次へと時代は遡り、ついにはヒトラーの子供の頃の写真にまで巻き戻される。

少年はそのヒトラーの写真を現在の写真とオーバーラップさせ、撃ち殺す。

すべての出来事は子どもから始まるのだ。



冒頭、子どもがバカにしたように「時代に対応して生きろ」と言った父をなじった。

この悲劇は、少年が引き起こしたものかもしれないし、そうではないかもしれない。
しかし、現実問題として戦争を捉えなかった甘さが凄惨な殺人に繋がったのは事実である。彼がその怒りと悲しみをその後どこにぶつけたかは分からない。

地獄はまだ終わっていないのだ。
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