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炎628のkazataのレビュー・感想・評価

炎628(1985年製作の映画)
5.0
久しぶりに『殺し屋』を見たことでタルコフスキー監督について振り返っていたら、ロシア(ソ連)映画熱が高まってきたので、以前から「いつか見なければ…」とブックマークしていた本作を、覚悟と気合いを入れて鑑賞しましたが……
モニターに釘づけ状態であっという間の2時間17分でした。
ソ連戦争映画の決定版と言っても過言じゃないでしょう!それぐらい圧倒的な映画です。

ちなみにYouTube上でも無料で見られますよ↓
https://youtu.be/UkkJZweYaLI
…というかモスフィルム公式さん、大量の過去作品を無料公開してくれている神チャンネル過ぎて、片っ端から見続けていきたい衝動を抑えるのが大変です!スパシーバ!!


昔、夏休みに都内で“ソ連映画祭”というものが開催されたことがありまして……当時の自分は「アメリカ映画なんてお子ちゃま向けで、ヨーロッパ映画の方がクールだぜ!」という背伸びしたい映画少年だったので喜び勇んで通い、タルコフスキーはもちろん、ヴィターリー・カネフスキーやセルゲイ・ボドロフやアレクセイ・バラバーノフやアレクサンドル・ソクーロフ…といった監督たちの映画を見て大興奮したことを今でも覚えています。
(エイゼンシュテインはVHSかDVDで見ていたのと、ニキータ・ミハルコフは後に新文芸坐へ観に行って気持ちよく爆睡しました…)


さて、本作について、、、
第二次大戦下のベラルーシで、銃を掘り起こしてしまった少年がパルチザンに加入したら地獄へまっしぐら……という戦争の狂気をこれでもかと描く物語。

邦題にもなっている“炎628”とは、ナチスドイツによって消滅させられた村の数。ナチスの蛮行を描くためにトラウマ必至の地獄絵図&阿鼻叫喚シーンを再現し、少年が主人公なのに撮影時に平気で実弾が飛び交っていたとか(笑)

(ソ連はアメリカ以上の映画大国だったので、巨大なスケールで人&金を投入して映画撮影をしていたから、いろんな意味でヤバいです!!)

(原題はヨハネの黙示録6章からの引用で、“戦争=殺人”という封印を解いてしまったことでこの世に“地獄=死”が蔓延する…とか何とかで、黙示録に登場する“偽キリスト=ヒトラー”として本作は描いています)

(ソ連版"地獄の黙示録"と呼ばれているとかいないとか…)


(以下、ラストシーンに触れます↓)


本作のクライマックスが見事すぎて!
と言うのも、主人公少年が初めて銃を撃つ相手が“水溜りに浮かんだヒトラーの写真”なんですが、そっから実際のフッテージを使ってバーっと歴史的事実を時を遡らせながら見せていった後で、少年は絶望感から涙を流します──水面に映った幼子時のヒトラーの写真に重なる自分の姿に気づいた涙だったんですよね。

(本作冒頭で銃を手にしたときの嬉しそうな少年の表情との対比の見事さはもちろん、超強力な反戦メッセージ!)

当然、この後ソ連ではスターリンによる粛清という名のヒトラー以上の虐殺が繰り広げられた事実があるわけで……それを正面から批判するように描くわけにはいかないんで、映画の作り手たちは巧妙な映像表現を駆使して普遍的なメッセージを伝えようと戦っていたんだと思います。

(単に戦争の“被害/加害の関係”だけでなく、戦争という暴力そのものへの否定が描かれているわけなので、決して“ナチス憎し”だけで終わっていい話じゃない!ってこと)

さらに本作が秀逸なのは、以上のシーンの後に続くラストカット!
行進していくパルチザンの隊列に、後から来た少年が追いついて列に加わるところを1カット長回しで描いているんですが、少年が最後尾に追いついたところで、カメラは隊列を離れて森の中へと入っていきます。で、ショートカットするようにして森を抜けてきたカメラが再び隊列を写すと、もう少年がどこにいるのか見分けがつかなくなっているわけです──これ、個人が消滅する全体主義への強烈なアンチテーゼに思えませんか!?

(ナチスドイツもソ連も全体主義…)
(最近の日本も全体主義的な傾向が強まってきてません?)

ドイツが降伏(=調印で翌日発効)した5月7日に本作をレビューできたという偶然の必然に感謝しつつ、戦争の悲惨さを体感するにはうってつけな映画(DVDの入手も比較的簡単だし…)なのはもちろん、“個人<全体”という圧力が社会的に強まってきた中だからこそ、多くの人たちに見てもらいたい一本です!
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