dita

月はどっちに出ているのditaのレビュー・感想・評価

月はどっちに出ている(1993年製作の映画)
4.5
@第七藝術劇場   

台詞も演出もどこまでも「映画」なのに、こんなにも「人間」で、ずっと胸が痛くて、でも楽しくて、ラストの憂歌団でずっと堪えていた涙が溢れた。何故泣いたのか、何の涙だったのかはわからない。でも、わたしはこの映画が大好きで、この映画に出てくる人たちを心から愛おしく思った。

最近、わたし自身の「居場所」について考えることが多い。今いる自分の居場所について胸を張れる人は世の中にどれくらいいるのだろう。愛する人と一緒にいたい、一旗揚げたい、家族と暮らしたい。国や人種、家族や恋人、職業や環境。自分で選べることと選べないこと。どれだけ踏ん張っても、どれだけ周りを見渡しても、自分が今どこにいるのか、どこに行きたいのかわからなくなってしまう人のほうが多いのではないだろうか。

彼らもきっと今いる自分の居場所に不安を持っていたのだと思う。それでも彼らの多くは、この映画は、それを悲劇にはしなかった。たくさんの寂しさとたくさんの辛さを、ほんの少しのつよがりとほんの少しの優しさで包み込むことで、彼らの居場所を、彼らの人生を喜劇に変えた。これからもこの場所で生きていくために。自分の居場所はここだと胸を張るために。

「愛してる」と耳にタコが出来るほど言われた経験はないし、言われたところで幸せになんてなれないことは知っている。でも、わたしの居場所でいてほしいと思える人には、あなたの居場所になりたいと思える人には、耳にタコが出来るくらいの「愛してる」を伝えたい。

わたしはずっとわたしの居場所を見つけることが出来ないまま大人になった。でも今日この映画を観て、月に向かって走り続けた先にわたしの居場所があると信じたいと思った。いつか好きな人とこの映画を観て、ここがわたしとあなたの居場所だねと笑い合いたい。

「自分は今、どこにいるのでありましょうか」
「月はどっちに出ていますか?月に向かって走ってきて下さい」
dita

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