Kuuta

ベロニカ・フォスのあこがれのKuutaのレビュー・感想・評価

3.9
ファスビンダーは食わず嫌いしてほとんど見てこなかった。彼が影響された監督にはサークを始め、ウォルシュやオフュルスなど尽く私も好きな名前が並んでおり、「〇〇っぽいな〜」が先に来てしまってどうも作品に入り込めないところがある。

ぼちぼち向き合おうと選んだ今作は、ハリウッドのノワールものを踏襲しつつ、老いた女優の心の崩壊を西ドイツの戦後史に重ねる、という内容。話には既視感を覚え、そんなに乗れなかった。白い画面に身を沈め、過去への逃避を試みる女優の姿は「欲望という名の電車」のヴィヴィアン・リーの真逆だなあ、と連想した。

白昼夢を見ているような過剰な照明、夜の雨からの路面電車など、冒頭から撮影は抜群に美しい。手前に物をいろいろ置いてドリーしたり、男女の間に斜めの線を入れたりするオフュルス感(やはり〇〇っぽいが来てしまう…)。欧州の戦争の影を伝えるニュースや、あの老夫婦の最後、メロドラマに社会の矛盾や欺瞞をきっちり入れるスタイルはやっぱりサークだ。女優がドリーインに耐えられずぶっ倒れるのも面白かった。

ハリウッドのノワールはナチスから亡命した監督たちが発展させたジャンルであり、今作はナチスが台頭せず、表現主義も弾圧されなかったドイツで40年代に作られていたかもしれない空想上のノワール、でもあるのかなと思った。ナチスで傷つき、ナチスそのものでもある戦後ドイツの行き場のなさが、発狂しそうになる白に現れているのでは。78点。
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