さすらいの用心棒

フルメタル・ジャケットのさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.0
鬼才スタンリー・キューブリックが描くベトナム戦争。

特筆すべきなのはやはり海兵隊訓練所の第一部だろう。この映画を思い出すとき真っ先に思い出すのはハートマン鬼軍曹以外にありえない。のちにフィクションに登場するすべての”鬼教官”のイメージの鋳型をつくったのが彼だったと言われても無理なく信じることが出来るし、『セッション』で強烈なインパクトを残したシモンズも彼の影響から免れていないだろう。
第二部の市街戦もよかったのだけど、『プラトーン』や『地獄の黙示録』よりずば抜けているとは言えないのは、上記作品のようなジャングルでの戦闘がなかったからか、「反戦」というメッセージがあるわけでもなく、戦争を描きたかったにしてはあまり悲惨さが足りなかったからか。瞬きしている間に命が潰える場面はリアルではあるが、すくなくとも『プライベート・ライアン』や『硫黄島からの手紙』などを知る我々にはバイオレンス描写が物足りなく映るだろう。原作は三部まであるらしいが、果たしてそちらはどうなっているのか気になる。ただ、第二部もハートマン同様にのちのフィクションに影響を及ぼしており、あの高台のスナイパーのイメージも確実に『高地戦』といった映画にパクられている。
構成が歪な映画ではあるが、美しい構図の画と強烈なセリフの数々がこの映画を記憶に刻み込ませていることは疑いようがないし、名作という世の評判は正しいと思う。