このレビューはネタバレを含みます
ロッキー山脈の優秀な山岳救助隊員のゲイブは、ある日、同僚のハルが恋人と山登りデートの最中に怪我を負い、救助の要請を受ける。救助に向かったゲイブだが、装備の不具合が発生、急いで近づいたゲイブだが、ハルの目の前で恋人を救助できずに落下死させてしまう…。
劇場公開時以来の再鑑賞。
CGによる合成が発達しておらず、本当に雪山で撮るしかなかった時代の作品ゆえ、標高の高さを実感する迫力の空撮映像が素晴らしい。
大スクリーンで見た時は冒頭の女性の落下シーンはほぼ等身大の大きさで目の前で起こっているように見え、息を呑んだのを覚えている。
流石、アクションスターのシルベスター・スタローン主演、監督は「ダイハード2」のレニー・ハーリン演出だけあってアクションは見せ場のバリエーションも多く、テンポ良く、飽きる暇はない。
しかし、月日を経て混沌とした現代の目で見ると、ドラマ部分は今ひとつ。
雪山に不時着した武装強盗団と山岳救助隊員の戦いを描いたサスペンス・アクションの佳作である。
ゲイブは恋人の事故死でハルに恨まれる。
素人を連れてきた自分のプロ意識の低さを棚に上げて、親友を責めるなんて無責任な…とも思うが、矛先がないから仕方ないとしよう。
罪悪感に苛まれたゲイブは、山岳救助隊の仕事を辞め、大好きな山からも遠ざかることになる。
月日が過ぎたある日、ロッキー山脈上空で国際的な犯罪者が現金を郵送する飛行機をハイジャックする事件が発生。
飛行機から飛行機へとハイジャック犯がロープで乗り移るスタントは紛れもないホンモノ。
良くぞ、やり遂げたと感心する危険度だ。
だが、計画は失敗し、強盗団の機はロッキー山脈に不時着する。
その頃、ゲイブはかつての同僚であり元恋人のジェシーの下を訪れて、共に暮らそうと誘うが、そこに山で遭難した人物からの救助要請が入る。
ジェシーに頼まれてハルの応援にゲイブは向かうことになる。
救助に向かうと、不審な一団に疑問を持つゲイブとハル。
一団はハルを人質に取ると、墜落時に放り出された大金の入ったスーツケースを山に詳しいゲイブに捜せと命じる。
広大で険しいロッキー山脈の中を、ゲイブは発信機を頼りに、犯罪者達を連れてスーツケースを探し始める…と、ここまでは良い。
この作品の一番の難点は、悪党たちの描き方だ。
何の為に金が必要なのか?
目的も不明なら、テロリストとしての思想もない。
更にリーダーはともかく、部下が間抜けな上に一枚岩ではないのだ。
金をゲイブ一人で取りに行かせておいて、見つけたら殺せの命令に銃乱射、そして雪崩が起きてケースを失う。
雪崩を見せたかっただけの演出か?
雪山で音を立ててはいけないことなど、子どもでも分かる。
行動が稚拙すぎるのだ。
難を逃れたゲイブは、通信が途絶えたことを不審に思ってやって来たジェシーと山小屋で合流。
全てのスーツケースを集め終えれば、取り残されたハルは殺されると、先回りしながらゲイブは反撃の機会をじっくり伺う。
スーツケースを回収していく中、隙を見て反撃に出る。
山に慣れたゲイブは地形を利用し、武器を持つ犯罪者達に知恵と鍛えられた肉体で応戦していく。
遂に、犯罪者のボスであるエリック・クウェイランを追い詰めたゲイブだが、救助に来たジェシーを人質にとられてしまう。
大金の入ったケースとジェシーの交換に応じるゲイブ。
ジェシーが無事に解放されたのを見届けると、ゲイブはケースをプロペラに投げて金は飛散。
ワイヤーをヘリコプターに取りつけ、逃亡を防ぐ。
エリックがヘリコプターでゲイブに突っ込んで殺そうとしたため、ゲイブは崖についていた梯子に捕まって逃げる。
墜落途中にワイヤーで崖に引っかかったヘリの上で、エリックとゲイブは格闘。
一瞬の隙を見て、ゲイブが勝利。
エリックは崖下に落ちていった。
ようやく駆けつけたFBIは無線機でハル達に呼び掛け、救助を向かわせる…。
かつて救助に失敗して山岳救助隊を引退したスタローンが、緊急でやむなく復帰を決めて雪山に登る。
しかし救助を待っていたのは人殺しも平気な悪党で、そいつらとの金の奪い合いが始まる。
雪山版の「ダイハード」である。
当時スタローンは40代だが、見事な筋肉と動きでアクションを披露。
実際にロッククライミングを行い、ロープを使ってスルスルと移動したり、吊り橋の爆破で崖に飛び移ってしがみつく。
富士山を軽装で登る外国人観光客が救助を求めるニュースが流れる現在、酷寒の中で装備を剥ぎ取られて薄着で活躍するのは無理があるが、スタローンは鍛えた肉体だからということで納得しよう。
公開当時は「ランボー」のように銃器に頼らず、「ロッキー」のように腕力に頼らぬアクションを模索していた時期。
新境地に挑戦する姿勢が感じられて、好感が持てる。
今見ると、彼の顔が映るアクションシーンはセットを下から撮ったり、マットペイントによる背景との合成だと分かるが、見事な編集と過酷な環境でのスタントマンの貢献は賞賛に値する。
結局は山岳救助隊が勝ち、犯人らは死亡。
金は飛散したり、暖を取る為に燃やされたりするが、見事な活躍でハッピーエンドだ。
娯楽作品としては申し分ない。
しかし、ドラマ部分は今ひとつ。
登場人物達は善玉と悪玉それぞれに対立している。
ゲイブとハルはかつての救助の失敗を巡って反発し合っているし、犯罪者側においても、冷酷非情なリーダーのエリックと、強奪を持ち掛けた財務省のトラバースとの間には、金さえ奪えば即殺されるという一触即発の空気が漂う。
敵・味方ともに一枚岩ではなく、「こんな場所で争ってる場合じゃないだろう?」という対立がサスペンスを産み、やがて双方がそれぞれ団結し、意地とプライドがぶつかり合うようドラマを狙っていたと推測されるが、アクション以外のドラマ要素があまりうまく機能していない。
ハルは恋人の死でゲイブを責めたことの懺悔もせずに、すぐにゲイブを心配をし始める。
悪役は、ボスのエリックが金の取り分を増やして部下のエサにしたり、テロリスト的な政治的な思想や目的を語って意識高揚を図る訳でもないので、一向にまとまらない。
通信も操縦も出来る最も有能な愛人を殺し、「これでヘリを操縦出来るのは俺だけだ。助かりたいなら金を取ってこい」とトラバースに命令する件は、冷酷さは伝わるが、「助け合わなきゃいけない状況で、人手を減らすとは馬鹿なの?」と思ってしまう。
とはいえ、崖にしがみついてハラハラするという意味通りの「クリフハンガー」なアクションと壮大な風景での撮影、そしてテーマ曲も素晴らしい。
過酷な状況下でのサバイバルと人間ドラマを加えてくれていたなら間違いなく大傑作である。
真剣なリメイクをして欲しいと思ったが、スタローン以上に華のあるアクションスターがいない現在では無理なんだろうなぁ…。