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夜の河のkojikojiのレビュー・感想・評価

夜の河(1956年製作の映画)
4.0
No.1690

 幼稚園から小学校にかけてが、私の映画人生の第1期だ。
 両親が映画好きで、しかも時代も映画の黄金期。相当数の映画を観た。しかし観るのはもっぱら東映チャンバラ映画と日活アクション映画だ。
 当時の地方の映画館は併映、しかも会社を問わず上映されていたから、例えば東映映画と日活映画の併映など当然のように上映されていた。それが理由なのかもしれないが時に大人の恋愛を扱っている松竹映画や大映映画も結構観ている。やはりヒットした作品は両親も観たいと思ったのかもしれないが。
 ところが映画好きの子供であってもこの手の映画だけは嫌だった。それは当然だろう。小学生が例えば本作を観たってわかるはずがない。
 東映、日活一辺倒の我が家ではあったが、どうした訳か、山本富士子が当時のナンバー1の女優て通っていて、嫌いな私もそんな認識でいた。「何がいいのだろうこんなおばさん。鼻の形も悪いし」が私の内心の評価ではあったのだが。
 それはこの年になっても全く抜けず、ある種毛嫌いしていた。
 ところがこのところ何本か彼女の映画を観ているうちに、だいぶ自分の認識が変わってきているのを感じていた。
それもあって、いつか山本富士子がスターダムにのし上がったとされる本作を観たいと思っていたのだ。

 京染屋の長女舟木きわ(山本富士子)は、伝統的な京染の世界においてロウケツ染で新境地を見出し、女ながらに次々と新商品を開拓していた。ある日きわは、製作の参考にと訪れた奈良で大阪大学教授・竹村(上原謙)と出会う。その時、彼が偶然きわが染めた柄のネクタイをしていたことがきっかけで交流が深まりいつしか恋が芽生えていく。しかし彼には病床の妻がいた。
 
 山本富士子が演じる「きわ」は、当時ではおそらく珍しい、手に職を持ち自立した女性だ。しかも凛とした態度やセリフが、さっぱりしていてすごく気持ちがいい。それが京都弁なので尚更引き立つ。すごく魅力的な女性だ。そんな彼女に会いたいと言われれば、天下のニ枚目の上原謙でもまいるだろう。
私もこれはちょっとやばいかも。😅

 今で言う「不倫もの」だ。
 山本富士子25歳。上原謙47歳。
ところがあまり年の差は感じさせない。上原謙の力か、山本富士子の力なのかわからない。
ただ、上原謙が少々疲れ気味なのが気にはなる。
 山本富士子25歳は恐るべし。入社3年目の映画だそうだが、大人の演技に驚く。
今の日本で、25歳の女優の中にこの演技ができる女優がいるだろうか?
第一、こんなに見事に着物は着こなせないだろう。
やはり山本富士子は只者ではない。

この映画はスタッフも超豪華。
監督は吉村公三郎
撮影は宮川一夫、脚本は田中澄江だ。
吉村監督は色盲で、初のカラー映画作品らしい。色鮮やかな染物を扱う映画に敢えて挑戦したのは何か理由があるのだろう。
 
 これは書いとかないといけない。山本富士子が着る着物はどれも素晴らしい。この着物姿を見るだけで、この映画を見る価値が充分ある。
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