不在

袋小路の不在のレビュー・感想・評価

袋小路(1965年製作の映画)
3.4
『水の中のナイフ』でポーランドにおける共産主義の実情を暴き出したポランスキーだったが、本作もそれと同じような筋書きになっている。
権力で女性を縛り付けている金持ちの男が一人の訪問者によって破滅させられるという物語だ。
公開当時1960年代のイギリスといえば若者たちによる文化革命運動が盛んで、特にロンドンはスウィンギング・ロンドンと呼ばれるムーブメントで非常に活気づいていた。
本作の舞台となるノーサンバーランド州は、そのロンドンから北へ6時間ほど車を走らせたところにあるそうだ。
この作品における妻は、そのメイクや言動などを見るにまさにロンドンで暮らすべき、自由を求める女性だ。
そんな彼女は夫によってロンドンから遠く離れた古城に閉じ込められ、さらにその周りの潮が満ちたり引いたりするせいで思うように動けないでいる。
自由を強く求める気持ちと、そこから出たところで行く宛がないという彼女の葛藤もまた潮の満ち引きのようだ。
そしてここに現れるギャングの男は、ある種究極の自由を象徴している。
政治や宗教に縛られず好き勝手に生きている男の姿を見て、妻は命の危険に晒されながらも彼を心から拒絶することができない。
むしろギャングに抗えず自分を守ろうともしない夫に対する失望感だけが余計に募っていく。
しかし結局はこのギャングにもボスという存在があり、はじめからそれの言いなりだった。
この世界に本当の意味で自由な男などいないのだ。
それに気付いた彼女は、手堅い選択肢を選ぶ。
ハンサムで金持ち、髪もフサフサでなんとなく妻との関係がうまくいっていなさそうな男に逃がしてくれと頼むのだ。
そして一人取り残された夫が、前の妻の名前を叫びながら哀れに泣き喚くところで映画は終わる。
不在

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