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愛・アマチュアのnt708のネタバレレビュー・内容・結末

愛・アマチュア(1994年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

映画というと主人公たちが何をするのか、なぜそれをするのかという「過去」を描くのが定石だが、本作は今その瞬間に起きていることを描こうとする映画にしては珍しいタイプの作品だ(こういう作品は演劇の世界で「不条理劇」として親しまれていることが多い)。どのような展開に転ぶかわからないかゆえに、その静かな作風とは裏腹に常に気持ちの張りつめているような感覚を得た。

物語の軸は記憶喪失の男と色情症の女が恋に落ちるという平凡なもの。しかし、記憶をなくした男は裏組織の一員で追われる身であることが徐々にわかっていく。一方の女はかつて修道女だったが、色情症のために規律を守れず現在はポルノ雑誌に官能小説を載せる三流作家。最初はセックスをできれば誰でも良かった彼女が、男の素性がわかるにつれてリスクを求め、彼自身に恋していく。その恋は物語の最後、とあるかたちで儚くも散っていくのだが、それが儚くも美しい。

ギャングの登場するバイオレンスものと言えば、『ゴッドファーザー』をはじめとする男中心の物語か『パルクフィクション』のようなポップな作風をイメージしやすいのだが、本作における物語の中心は女性であり、それゆえか作風も実に落ち着いている。その点においても本作は実にユニークと言えるだろう。

1990年代という時代はどうしてこんな雰囲気をまとっているのか、、同時期に制作された映画を観るたびに不思議に思う。もうこんな雰囲気のある映画を作ることはできないのだろうか。もしそうだとしたら残念でならない。なんだかんだ言って自分はこういう映画が好きだから、、
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