英国映画協会"史上最高の映画100"の監督投票部門で今回ランクインした一本。1990 年代後半から始まった “新しいアルゼンチンシネマ”の女性監督ルクレシア ・マルテルの代表作。原題は「La Cienega(沼地)」。
蒸し暑い夏。プールのわきでワインを飲んでいた中年女性がよろけて倒れグラスが砕け散る。女性は胸もとを傷つけ起き上がれないが周囲の人間は誰も助けない。怪我をしたのはかつてブルジョアだったメチャ。夫と4人の子供たちと暮らしている。見舞いにくるのは近所に住む従妹のタリ。同じく4人の子供がいて、両家の子供たちはいつも一緒に遊んでいる。ある日、銃で遊んでいた子供たちは沼にはまって動けなくなった牛を見つける。。。
上記の導入部が大きなインパクトを残し、その不穏さを引きずりつつ静かに映画が進んでいく。大きな物語はなく、蒸し暑さと家族それぞれの描写が断片的に重ねられていく。かなり繊細な何かを紡ぎ出そうとしているのは伝わってくるのだが、人間関係や内面の打ち出しはなされないので正直言って2000年代初頭のアルゼンチンの雰囲気を感じるだけに留まった。
“新しいアルゼンチンシネマ”が発展した1990年代後半は、アルゼンチンという国そのものに大きな変革があったとのこと。その変化がもたらした人々の心のゆらぎを、2種類の家族の特に女性たちの姿を通して描いているように思える。劇中のテレビで何度も聖母マリアが現れたというニュースが流れるが、アルゼンチンの未来への”予感”を示しているのか?とても気になる表現だがいまひとつわからなかった。
とてもドメスティックな作品なのではないか。アルゼンチンについて全く不勉強なので、いつかまとめて観る機会があれば本作も再度鑑賞したい。暴発しそうな何かを孕んでいるのは確実なので、その正体を突きとめたい。