takanoひねもすのたり

灼熱の魂のtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

灼熱の魂(2010年製作の映画)
3.5
"死"で物語は終わらない、常に痕跡を残す

再鑑賞

急死した母の謎めいた遺言を受け、残された双子の姉弟が、死んだ筈の父と存在すら知らなかった兄を探すため、母の母国である中東を訪れ過去の痕跡を辿る話

レバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲(未読)を元に脚色されたミステリードラマ、劇中の母・ナワルの辿る壮絶な体験の一部は、政治活動家ソウハ・ベチャラ(関連本既読)を参考にしている

レバノン内戦と1+1=1が示す真実
オイディプス王(踵のピン)とコラッツ予想(全てが1に至る)

レバノン内戦のきっかけになった1975年の黒い日曜日を引用したバス虐殺シーン、難民、十字架とスカーフなどを使い全体を抽象的にまとめあげることに成功していると思う
中東情勢、宗教対立、武力紛争、民族対立など、こちら側に輪郭を掴ませる画作りがうまい

ロケ地のヨルダン、パレスチナ問題をニュースで目にしていると……複雑な気持ち
この作品で描かれている内戦は監督のフィクションであって、かなり単純化した図式、描れてた内容に対しての捉え方が、初見当時はともかく、今は素直に難しい、フィクションと割り切るには戦争の痕跡が生々しく在ることにどう受け止めれば良いのか分からない

憎しみ、怒り、救い、愛といったメロドラマをスケール感でみせる演出、画面構成力は監督だなあと思う、ミステリーの筋立ても基本はシンプルながら膨らませ方も引き込まれる

その反面、ミステリーのオチ、ラストのプールでの部分に偶然の出来過ぎ感

良い作品だと思う、分かりやすいし、宗教対立、紛争と報復の連鎖などへ時事の触媒の役割にもなりえたし
ただなんだろうなあ……胸につっかえるものが残るんだよなあ、上手く言えない、歳を喰ったってことかなあ