このレビューはネタバレを含みます
ハッピー・エンド。
道はどこまでも続いていく。
男は狂っていた。
過去の悲しみから、幻聴がノイズが彼を追い立て、彼は嵐の中の凧のように独り、怯えて狂っていた。
壊れた家庭。
母親との、張り詰めた食事。
響く薬缶の音。
コーヒーを3杯頼む。
それは誰のものか。
男には娘がいた。
どこかに貰われていった、娘がひとり。
娘に逢いたいというのが、男の唯一つの希みだった。
男が娘を探し求めて彷徨っている頃、幼女が連続して殺される事件が起こっていた。
男はそれを知る由も無い。
やがて、ブランコの上に、男は少女を見つける。
半開きの口、見開かれた眼、驚いたような、少し怯えたような貌の少女は、殆ど言葉も交わさずに、父親だと言う男を曖昧に受容れた。
感情を喪失したような、一種呆けたような少女の貌は、男と対象的でありながらもどこか生き難さ、のようなものを共有していて、その向こうにいるのは、死んだ女のかたちをした空洞のような気がした。
二人の手が繋がれて、
海を見にゆく。
海辺で戯れたあと、二人は砂の上に座った。
カメラがバックショットに変わる。
男と少女は立ち上がって、海を背にこちらへ向かって歩き出す。
空と、海と、はだかの、ふたつの足。
それを見ただけでもう、すべてが救われた気がする。
鳴り響く銃声。
俺はクリーンだ、と父親が呟く。
狂っているのは誰なのか。
割れた車の窓から、娘は無表情に見つめ続ける。
風で洗濯物がはためいて、寄せたり返したりする。
眼を伏せた母親を優しく抱き寄せるように、洗濯物がはためいている。
やわらかな陽射しの中で。
きらめく波間に揺れる船の上で、娘がはしゃいでいる。
表情は太陽のように明るい。
娘が無線に呼びかける。
ねぇ、パパ、聞こえる?
なんて幸福な終わり。
なんて幸福な死。
決して消えない哀しみがあって。
死ななければ救われない魂があって。
それを誰かが拾って投げ返してくれるなら、それはもうハッピーエンドだ。
辿り着く先などなくとも、果てしなく拡がる青空の中心へ向かって、眼差しはどこまでも延びてゆく。
終わりの無い放物線を描いて。
見えなくなっても、ずっと。
オーバー?