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苺とチョコレートのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

苺とチョコレート(1993年製作の映画)
3.5
【キューバの《華氏451》】
キューバに行くので、キューバ映画に力を入れているブンブン。今回はキューバ映画の巨匠トマス・グティエレス・アレアの『苺とチョコレート』を観た。

なんとオードリー若林のエッセイでも言及されているとのこと。ワクワクして観た。

本作は『低開発の記憶 メモリアス』における、社会主義になりゆくキューバにおける文化人像を深く掘り下げた作品だ。『低開発の記憶 メモリアス』ではヌーヴェルヴァーグのような実験的手法で混沌を描いていたのに対し、こちらはドラマで勝負だ。

いきなりカフェで、ゲイが青年をナンパし始める。

「君のスキャンダル写真持ってるよ」

青年は写真を返してもらうべくゲイの家に行くと、芸術だらけの空間に困惑する。彼は文学、音楽、絵画に詳しい文化人だったのだ。

大学の組織に連絡したところ、先輩から「彼を監視しろ、キューバの敵かもしれない」と言われ、青年はこのゲイと交流するのだが、段々と惹きこまれてしまう。

『低開発の記憶 メモリアス』に登場した作家は無気力だったのに対し、本作のゲイは、アートでキューバを応援しようとしていた。革命派の暴力、抑圧には反対だが、根幹は一緒。しかし、社会主義において自由でコントロール不能な奴は邪魔な存在となってしまう。そして排除の波が押し寄せる。

トマス・グティエレス・アレア監督は、文化人や中流・上流階級がキューバのことを想いつつ、キューバの体制に失望し、亡命していったことを暴いた。

ジョージ・オーウェルの『1984』、レイ・ブラッドベリ『華氏451』の骨格の下、社会主義キューバの空気を映画に凝縮した佳作でした。
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