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張込みのおーたむのレビュー・感想・評価

張込み(1958年製作の映画)
4.0
「砂の器」がまあまあだったので、同じく松本清張原作、野村芳太郎監督、橋本忍脚本の本作を見てみることにしました。
私はモノクロもけっこう好きなので、楽しめるんじゃないかなと思いまして。
で、見てみましたが、良かったです。

もっとも、本作の前半はかなりのんびりした展開なので、鑑賞するのには我慢強さが必要だな、とは思いました。
主要人物である二人の刑事が監視するのは、強盗殺人の容疑者の昔の恋人で、この監視対象の女性の日々の生活が、まあなんにもなくて退屈です。
彼女が誰かと話したり、外出したりするたび、刑事たちは「すわ容疑者との接触か」と色めきたつものの、どれだけ監視しても、無味乾燥とした毎日を送る女性の姿が見えるばかりで、手がかりは見えません。
こんな感じで面白くなるのかなと、見ていてちょっと心配してしまいました。

ただ、この何も起こらない日常があるために、後半の展開が映えてきます。
空振りかと思われた張り込みは終了間際に成就し、女性は容疑者と接触するのですが、生気を失っていたようなそれまでとは全く違う彼女の表情に、刑事(と、映画を見ている我々)は驚かされることになります。
そして、さらにその後、彼女に訪れる結末は、劇的でないだけにかえって残酷です。
かなり情緒的だった「砂の器」と違い、本作では、話の中心であるこの女性をけっこう突き放して描いており、安易な泣かせに傾いてないのも良かったです。
人生に白馬の王子様なんか現れないし、所詮現実なんてこんなもんだと言わんばかりの語り口なので、見る人によっては嫌な刺さり方をする作品かもしれませんけどね。

しかし、地味ながら、人間に対して一歩引いた目線がクールで気持ちいい、見ごたえのある作品だったと思います。
張り込みという設定を、上手くストーリーや演出にも反映させた、佳作です。
自由を求めて羽ばたいた籠の鳥が、翼を焼かれて落下していくようなやるせない話が好物という方になら、おすすめできそう。
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