不在

ニーチェの馬の不在のレビュー・感想・評価

ニーチェの馬(2011年製作の映画)
4.8
この映画は時間の流れによって我々を催眠にかけ、自我の境界を曖昧にし、映像と思考を混濁させる危険な装置だ。
人間も所詮は思考するだけの動物であり、それを暴く為にこの映画は思考を促し続ける。

この親子は信仰もイデオロギーも文明すらも拒み、原始的な暮らしをしている。
ただ本能によって生かされているだけの、人間のありのままの姿だ。
人がその姿を変えていくのは、他者が勝手に定義した道徳や善悪という価値観に触れた時。
しかしここにはそういったものが入り込む隙間はない。
ただの人間が2人在るだけだ。
やがて来たる世界の終末とは人類が創り上げた欺瞞を全て消し去り、人を本来の姿に戻し、ただ暗闇だけを残すのだ。
そして創世は闇から始まる。

この映画には、人間は何故生きるか、などというありきたりな問いかけは無い。
人類は静かな死を繰り返す為だけに生まれてきたのだ。
不在

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