Pinch

ニーチェの馬のPinchのレビュー・感想・評価

ニーチェの馬(2011年製作の映画)
5.0
これは一つの寓話だ。外的な状況は関係がない。力を持たない大多数の人間は、この親子のように、極限状態の中をかろうじて生き延びる。飲んだくれの知恵者が知的な愚痴の講釈を垂れようと、浮かれた放蕩者集団が生活の糧を略奪しようと、優れた書物に啓発され希望を見出そうと、心の純潔が陵辱されようと、朝起きて、労働し、右往左往し、食べ、寝て、起きて、次第に減る食糧、募る不安…。一見して清潔で文化的な生活が一般化した今も我々の身に起こっていることは本質的に同じだ。

「馬」は、この惨めな世界を克服する手段の象徴である。生きるもの全てに運命づけられたこの円環から脱出しようともがき苦しみ彼岸と此岸の境界に立っていたニーチェは、脱出の契機となり得る馬が陵辱されるさまに耐えられず、馬を防御しながら従順な狂気に陥った。彼ですらそうだったのだ。ここから抜け出すのはそう簡単じゃない。表面上の文化の発達によって何とかなる問題ではない。

優れた寓話を通して一つの真実と世界観を示した、究極の名作。
Pinch

Pinch