恐らくこの映画は私にとっては2009年の最高傑作になるだろう。
同時期にアカデミー賞受賞作品の「スラムドッグミリオネラ」、「ミルク」を更に超えた秀作で、なんでこの作品がノミネートすらさせなかったのか不思議で仕方なかった。
かっこいいおじさまのイメージだった彼がいつのまにこんなに老けてしまったのか・・年月の流れがせつないくらいに
クリントイーストウッドの演じる頑固な偏屈おじいさん役が実にはまってる。
「死の美学」といった言葉があるかどうか定かではないが、この映画を観終わったあとひたすら頭に残った言葉がこれだ。
妻に先立たれ、今やモン族というアジア人移民だらけになった田舎町に眉を顰めながら住み続け、唯一の二人息子夫婦とも、その孫とも、長い間分かり合えず、飼い犬と磨き上げたグラント・トリノだけが守るべき存在の孤高な老人。
そして
ポーランド移民でありながら、朝鮮戦争で勲章をもらい定年までフォード社に勤め上げ、自宅のポーチには星条旗を掲げるウォルトは紛れもない愛国者であり、クロもイエローの存在も煙たく思い差別感情を露にする古い人間の彼がどうやって隣に住むモン族の家族と交流を深めてゆくかという過程が鍵となり衝撃のラストを迎える。
ちいさな田舎町に起こる事件。マイノリティーの民族に着目した、現代のアメリカへの問題定義。
この小さな出来事の癌でギャングの存在はアメリカ自身であり。アメリカの存在が世界にとってどういうものなのかということか暗に知らしめていたのかもしれない。
でも私がこの映画で率直に思ったのは、「生き様」と「死に方」について。
人間は歳を重ねるごとに、後悔と、罪を重ねていく。
生まれたままの純朴な姿で死んでいくことは出来ない。
だれもが生き方との理想とのギャップに苦悩し、老いてゆく。
偏屈で笑顔さえない老いぼれにとって、ラストの日は一番充実して幸せな1日だったのかもしれないと思う。
言ってしまえばものすごく地味な映画。
ハリウッド映画っぽいものが好きな人は多少物足りないかもしれない。
でも、コレをみた後はきっと誰もがじっくり自分の人生について一人で考えたくなるはずだ。