いののん

ガルシアの首のいののんのレビュー・感想・評価

ガルシアの首(1974年製作の映画)
4.0
いいからガルシアの首持ってきて!



村上春樹が最初に書いた小説、『風の歌を聴け』。その小説の最後の方で、次のようなことが語られる。主人公である「僕」と妻は、サム・ペキンパーの映画が来るたびに映画館に行っていること。僕は、ペキンパーの映画のなかでも、とりわけ、「ガルシアの首」が気に入っていること。


先月、久しぶりにその小説を読み直した。これまでは、そこはまったく素通りしていて、気にとめたこともなかった。でも、今の私は、素通りするわけにはいかない。知ってしまったことは、もう知ってしまったことなのだ。これは、観なくては!


とにかく、これは愛の映画だった(ような気がする)。エリータを加速度的に愛していくさま。失ってから思い知る、その愛の深さ。やぶれかぶれの、やさぐれ、やけくその中で、なき者と対話しながら、漂いながら、真実に真っ直ぐに向かっていこうとする脆さや強さ。アルが同志になっていくさま。激しい映画だった。


でも、どうしてもわからないことがある。どうして最後にバスケット籠を置いて、もう1つの方を持って出ていくのか。私がエリータだったら、激しく怒るぜ。貴方は私を置いていくのか、私よりあの男を選ぶのか。私と一緒に、じゃなくて、男と一緒に死ぬのか。それは同胞への愛というより、自己愛ではないのか。貴方は結局、ただ自分を愛しているだけではないのか。
考えれば考える程、自己愛のような気がしてくる。観てから数日経ったけど、とにかく気になって、尾を引いている。


だけど、そう考えていくと、ナルシズムというのかダンディズムというのか、よくわからないけど、そういうのが、たまらなく男の人を惹きつける映画なのかもしれない、と思ったりもする。
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