アニマル泉

ダウン・バイ・ローのアニマル泉のレビュー・感想・評価

ダウン・バイ・ロー(1986年製作の映画)
4.5
ジュームッシュは「3」だ。3人になると安定する。本作はザック(トム・ウェイツ)とジャック(ジョン・ルーリー)の物語だ。この2人は同時に目が開いて、同時に罠に嵌められて、同じ監獄に入れられる。2人は危険だ。案の定殴り合いになる。そこで世界を安定させるのがロベルト(ロベルト・ベニーニ)だ。3人が実現するからだ。ロベルトは2人が安定するために絶対必要な「宇宙人」である。「パターソン」の夫婦にとっての犬と同じ存在と言えるかもしれない。脱獄して仲違いしてもザックとジャックが同時にロベルトの元へ戻る場面が可笑しい。二人同時に戻るのがミソで、そのまま3人で兎の丸焼きを「タイヤみたいな味だ」などと言いながら悪びれずに食べるロングショットがジャームッシュならではのショットである。しかしロベルトが抜けることで「3」の安定は崩れる。ラストの分かれ道で二人は上着を交換する。冨塚亮平が鋭く指摘しているとおり、二人が入替可能のような交換である。ジャックとザック、似たよう名前と同じだ。もはやどちらがザックでどちらがジャックでもどうでもよい。どちらが西でどちらが東なのかもどうでもよい。不安定な「2」が「1」になってしまうという寓話だ。ドッペルゲンガーなのである。本作は全くもって人を食った物語だが、私は「奇数と偶数をめぐる宇宙人=天使の寓話」と納得している。
ロビー・ミューラーのモノクロ画面が美しい。前半はニューオリンズの廃れた無人のダウンタウン。後半はルイジアナの刑務所と沼地だ。ジャームッシュはオフビートで低温度だ。脱獄の場面やボートから脱出するアクションは描かない。呆気なく脱獄するし、ボートは静かに沈んでいく。脱獄して地下水道を走るロングショット、光と影が素晴らしい。沼地を滑走する移動ショットは景色が映り込む水面が官能的である。ショットは引きの長回しが多い。手前の人物ごしに奥の人物というツーショットの長回しが多用される。
原題はスラングで「頼りになる奴」という感じの意味。
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