ユースケ

崖の上のポニョのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

崖の上のポニョ(2008年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

「人面魚が浜に上がると津波が来る」
ポニョは誰がどう見ても人面魚である事をぶっちゃけた老婆の予言通り街は津波に飲み込まれた。
今、忌まわしい人間の時代は終わり、再び海の時代が始まる。

魚であるポニョが人間になる代償も、人間である宗介が人間でないポニョと結婚する葛藤も、ポニョと宗介が二人で試練を乗り越えるクライマックスも描かれず、起承転結すら成立しない物語的には破綻した作品ですが、古代魚の群れが道路の上を泳ぎ回る海に沈んだ街のビジュアルを見せられてしまうと嫌いにはなれない作品です。

とにかく、フェティッシュに描かれる画面を埋め尽くす海洋生物のワラワラ感や生物にしか見えない波(わかりやすく目まで付いてます)のブニョブニョ感がたまりません。
【ワルキューレの騎行】風の音楽をバックに海面へ噴出し、津波の上を駆け回るポニョや巨大な月に照らされた船の墓場を御神渡りする観音様(ポニョの母親)など、狂ったビジュアルも必見です。

インスマス面のポニョと巨大なグランマンマーレから私が感じたものは諸星大二郎の【栞と紙魚子】シリーズに登場するクトゥルーちゃんとクトゥルーちゃんのお母さん。そうです。本作のモチーフは人魚姫ではなく、クトゥルフ神話だったのです。
今、忌まわしい人間の時代は終わり、再び旧支配者による海の時代が始まる。

【町山智浩の映画塾!『宮崎駿の《世界》』】より…
ジブリ節の効いたキャラクター造形で誤魔化されていますが、姉御肌に見える母親はヒステリー持ちのスピード狂、お人好しに見える父親はろくに家に帰らないワーカーホリック、子供に名前で呼び合う事を許し、海水魚は水道水では生きられない事を教えられないダメな親として描かれています。
本作で宮崎駿監督が本当に描きたかった事は、自分の作ったアニメを見てダメになってしまった親の世代の浄化と、ルパンやポルコやアシタカが果たさなかった心を奪った女性との結婚を果たし、【風の谷のナウシカ】でも【もののけ姫】でも果たせなかった人間と自然の共存を果たした子の世代である宗介君が見せた希望なのでしょう。