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飢える魂のnetfilmsのレビュー・感想・評価

飢える魂(1956年製作の映画)
3.8
 等間隔に光の差し込む病院の廊下を、静かにゆっくりと患者が運ばれて来る。大学教授夫人の味岡道代(高野由美)の子宮筋腫の手術は無事成功し、2人の女性が彼女の見舞いにやって来る。芝令子(南田洋子)は富豪の実業家に嫁いで、人も羨むような幸せを手に入れたかに見えるがその表情は暗い。小河内まゆみ(轟夕起子)の方も早くに夫を亡くし、子供2人を抱えるシングル・マザーで建築ブローカーとして生計を立てているが、女としての寂しさを抱えている。味岡道代は2人の生活を羨んでいるのだが彼女たち2人はちっとも幸せそうには見えない。建築界を牛耳るかなり高齢の夫・直吉(小杉勇)は典型的な亭主関白で、自分を金のかからない秘書や娼婦としか考えてくれず不満を抱いているのだが、そんな彼女の前に思いがけず突然、立花烈(三橋達也)という魅力的な若い男が現れるのだ。いかにもスケベ面丸出しのプレイボーイの三橋達也が凄い。ぎらついた目をしながら、いかにも奥手で伏し目がちな南田洋子にあの手この手の色仕掛けで迫ろうとする。

 三橋達也と南田洋子は若いからまだ様になるのだが、轟夕起子の方も出版会社の部長で、病が長引く妻を持つ下妻(大坂志郎)と十年来の間柄であったが、夫が忘れられないと彼の求愛を避け続けているのだが、子供たちは2人の関係を疑っているのだ。病床の妻をベッドに残し、轟夕起子を肌が綺麗だなどと口説く大坂志郎も心底気持ち悪いが、轟夕起子の方も彼ときっぱり関係性を絶つのではなく、ずるずると逢瀬を繰り返す。若き人妻と未亡人のここではないどこかへの欲求を描いた物語はいかにも昭和の頃の幸福なメロドラマだが、川島雄三のリズミカルなカッティングは手早く、観ていてちっとも退屈しない。倉敷から京都、そして名古屋のTV搭を駆け上がる2人の距離は否応なしに高まるのだが、南田洋子の貞操観念はすんでのところで思い留まるのだ。しかし今ならモラハラものの小杉勇の亭主関白ぶりは観ていてあまりにも酷い。女風呂に入らせれば良いものをあえて混浴に裸で入らせて、背中を流させようとする不届きぶりでうっかりそこに三橋達也が現れるのかと思ったら空振りでもう一段、しなを作るのだから驚いた。石壁を隔てた温泉の向こうから「令子さん」と何度も声を掛ける三橋達也の声は情熱的に見えて相当ホラーだ。女たちの男を通したよろめきの中に微かな自立への想いが香る。小林旭のデビュー作だが、轟夕起子の長男役をぶっきらぼうに早口で演じている。桑野みゆきもこの頃はまだ若く、素朴な中学生といった印象だ。
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