たく

獣人のたくのレビュー・感想・評価

獣人(1938年製作の映画)
3.7
ある事件をきっかけとした恋路の末に悲劇を招く機関士を描いたジャン・ルノワール監督1938年作品。エミール・ゾラの小説が原作で、タイトル出しでゾラ本人の写真が出てくるのが珍しい。列車走行シーンの圧倒的迫力と、ジャン・ギャバンの手慣れた作業の様子を映し出す映像に引き付けられた。シモーヌ・シモンは、「快楽」で自殺を図るモデル役(この自殺シーンのカメラが凄い!)だったんだね。

妻が養父の愛人だったことを知った駅長が逆上して鉄道の客室で養父を殺してしまう現場に、駅長と同じ鉄道会社で働く機関士のジャックが偶然居合わせてしまう。彼が警察の事情聴取でその事実を隠したことがきっかけとなり、駅長の妻であるセヴリーヌと恋仲になってしまう展開。冒頭で駅長が財界の有力者からのわがままな要求を突っぱねるところで、てっきり彼が正義漢であることを示したのかと思ったら、彼がセヴリーヌに異様な執着を見せることで単なる思い込みの激しい人間だったことが分かる。

恋は障害があるほど燃え上がるという謂れのとおり、ジャックとセヴリーヌが離れられない関係となり、ついにジャックがセヴリーヌからある行動を要求される。ジャックは遺伝により時々暴力衝動を抑えられなくなるという爆弾を抱えてて(=獣人)、セヴリーヌの要求を実行しようとしたときにはその衝動が発露せず、逆に望まぬタイミングで発露してしまうという悲劇にひねりが効いてた。人間の避けられぬ業を描いているようで、味わい深い締めくくりだった。
たく

たく