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獣人のpikaのレビュー・感想・評価

獣人(1938年製作の映画)
4.0
なるほどー!先にラングが脚色した「仕組まれた罠」を見ていたので違いを楽しみながら見てみた。
原作も今作もフランス人によるもので、ラング版の「大幅な脚色」ってのはアメリカ人に寄せたものなのかなと思えた。
大筋は同じなんだけど対象となる国柄っつーか、観客が同調しやすいようにとのことなのかキャラの人物像が違っていて、故に展開は同じなんだけど味わいがかなり変わって来る。

フランス映画らしいドライな空気とルノワールによるスマートな演出が素晴らしく、必要最低限の描写で端的にキャラクターの背景や心理を描き出し、ドラマ展開によって起こる突発的な感情の変化がとても自然に感じられる。
グレン・フォードも魅力的だったけどジャン・ギャバンはやっぱすげぇ!
「獣人」という題名通りの病的な性質ってのは理解し難い面ではあるが、愛ゆえに生まれた殺意がもたらすサスペンスな展開、ってーのに独特な魅力をもたらしている。
「仕組まれた罠」では単に設定であるようにしか見えていなかった機関士であるというアイコンが叙情的に活きていて、スピーディでダイナミックな汽車のシーンがキャラの心情を投影するように作品に感情を与えているのが面白い。

今作でもヒロインの演技が棒ぽい印象を受けるんだけど、シモーヌ・シモンもグロリア・グレアムも全然違う感じの女優なのに無表情で何を考えてるのかわからない様がめっちゃ魅力的。棒ぽいのではなくそういうポジション故の敢えての演出なのかしら。
個人的にはヒロインだけでなく全員今作のキャラの方が圧倒的に良い。理解し難いはずの人物像なのに心理描写が丁寧なのでスーッと入ってきてわかりやすいため、ラストの展開に「あぁっ!!」と酔える。

ルノワール出演してた。誤認逮捕される無精髭男。
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