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善き人のためのソナタのn0701のネタバレレビュー・内容・結末

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

正常性バイアスは思い込みから始まる。

劇作家の男は、なぜ自分だけ監視されていないと思ったのだろうか。

ベルリンの壁崩壊までの醜く、汚い東ドイツを描く。彼らは社会主義、西側を敵対視し、西側の文化、歴史、思想を毛嫌いしている。まるで、隣の国のように。

劇作家の男は女優で妻である女と暮らす。男は国家の望む劇を作り、国内で高く評価される。彼に目をつけたのは国家の未来を背負う学生に尋問の在り方を教える男。男は拷問の末情報を引き出すプロフェッショナル。国家に仕え、国家に従順する優秀な兵士。

彼は劇作家を見て、西側に通じる何かを感じ取り、内偵を始める。夫婦の会話、友人との連絡、セックス、あらゆるものが筒抜けの中、優秀な兵士である男の心境に変化が現れる。

それは国内の有力者である醜男が劇作家の妻と不貞を働いている姿を目撃したことに始まる。優秀な兵士は、友人と企てた劇作家の反逆を見逃す。彼が劇作家の妻に特別な感情を抱いていたのかは分からない。

だが、監視する者とされる者、一方向からの想いは、得も知れぬ方向性を持って、兵士を変え始める。奇しくも国内の有力者が、追放された老いた劇作家の作品を馬鹿にした「人間は変わることができる」という性質を地で行った形となり、これが東ドイツの本質的な誤りを表すこととなった。

老いた劇作家は、仕事をすることを禁じられ、絶望の末に自殺する。

劇作家の夫とその友人たちはその事実を公表するため、機密理に手紙を作成しようとする。

彼らの不正を見逃した兵士は、不正を見破られなかった責任を問われる。女優の妻は捕らえられ、尋問の末に手紙を作ったタイプライターの在り処を口にする。だが、衝撃的なことに、そこにタイプライターはなかった。

兵士が移動させたのである。
彼の心はそこまで動いたのである。しかし、逃げ出す妻は車に撥ねられ死んでしまう。兵士の経歴もここまでとなる。尋問の失敗を問いただされ、彼はベルリンの壁崩壊まで手紙を開封して内容を確認するという地獄の仕事を担うこととなる。

だが、ベルリンの壁は崩壊し、彼ら東ドイツは大きく、大きく変化する。

東ドイツで大きな顔をしていた有力者たちは地位こそ失っても罪には問われない。これこそドイツの抱える負の遺産だろうが、そんなことがつい30年前まで行われていたのである。
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