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彼女が消えた浜辺の一人旅のレビュー・感想・評価

彼女が消えた浜辺(2009年製作の映画)
5.0
第59回ベルリン国際映画祭銀熊賞。
アスガー・ファルハディ監督作。

イランの映画人:アスガー・ファルハディ監督の4作目で、彼の作品が初めて世界に認められた出世作です。本作はベルリン映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞しています。

テヘランからカスピ海沿岸に休暇で訪れた複数名のイラン人グループのうち、知り合いに誘われてやって来た婚約中の独身女性:エリが浜辺から忽然と姿を消してしまったことを発端に巻き起こる複雑な人間模様を描いたヒューマンミステリーで、ファルハディらしく一つの出来事をきっかけに人間の内に秘めた心理を鋭く抉り出し交錯させていきます。

エリの失踪を発端にして、人間の秘密と嘘、嫌悪、エゴ、罪と悔悟が仲間内で激しく渦巻いていく様子に見入る心理ドラマとなっていて、一部の場面を除いて画面上の動きを抑えながらも、人々の心理と心理の正面衝突が恐ろしいほどの緊張感を持続させています。そして、エリの謎の失踪が、男性が女性に優越するイラン(イスラム)社会における女性の抑圧された性の問題を浮き彫りにしていて、自由を制限する象徴としての宙を舞う凧や憂いを含んだエリの微妙な表情や言動等、示唆に富んだ見せ方の優れた傑作であります。
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