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彼女が消えた浜辺のDSPECのレビュー・感想・評価

彼女が消えた浜辺(2009年製作の映画)
4.2
オープニングの真っ暗な闇の中に強烈な光と共に次々投函される手紙。それをポストの中から撮影している不気味な映像。冒頭からファルハディ監督に難問を出題される。

旅行先の浜辺でエリが突然に姿を消す。これだけの事を登場人物達の言動や、次々と解き明かされるエリの秘密のみで極上のサスペンスに仕立て上げる。いつ我々の身に起こっても不思議じゃないリアル感満載の見事としか言いようがない脚本。息つく暇の無い会話劇。

自らの保身の為にエリを陥れ欺いたこの家族達には自責の念で " 永遠の最悪 ” が生涯続くのだろう。そして “ 最悪の最後 ” を選択しなかった事を後悔する日々を永遠に過ごしていくのだ。

冒頭のポストが思い浮かぶ。誰もが持つ秘密や隠し事を盗み見する様子を描く。うまく騙し欺いて秘密を共有したつもりでも貴方達の行いはポストの中からしっかり監視しているよと。ポストの主はエリであったり、この映画を見ている我々であったり、ファルハディ自身かもしれない。

ラストの浜辺の砂にタイヤが空回りして動かない車。皆の策略で淫らな女性のレッテルを貼られた余りにも不憫なエリに対しての貴方達は簡単には帰さないよとファルハディからのささやかな贈り物。
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