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彼女が消えた浜辺のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

彼女が消えた浜辺(2009年製作の映画)
3.8
イランのアスガル・ファルハーディーが監督した4作目。
イラン社会で女性が置かれている状況を背景に、若い女性が海辺から消えたことで浮き彫りになる人間模様を描いたヒューマン・ドラマ。
ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞。
原題:(ペルシア) دربارهالی‎, 
(英) About Elly (2009)

テヘランに住む仲のよい中流階級の3家族が、三日間の休暇を取ってカスピ海の保養地へやってくる。
~その3家族~
①妻セピデー(ゴルシフテ・ファラハニ)、夫アミール(マニ・バギギ)、幼い娘アニタ
②妻ショーレ(メリラ・ザレイ)、夫ペイマン(ペイマン・マーディ)、幼い息子アラッシュと娘モルワリド
③妻ナジー(ラナ・アザディヴァル)、夫マヌチュール(アフマド・メヘランファル) 

この旅行を計画した①セピデーは、ナジーの兄で、離婚してドイツから一時的に戻ったアーマド(セイエド・シャハベデン・ホセイニ・トネカボニ)と、彼に紹介するために娘の幼稚園の先生であるエリ(タラネ・アリドゥスティ)も同行させていた。
到着後すぐセピデーの予約に手違いがあったことが分かり、代わりに、ビーチ前にある別荘に泊まることになる。セピデーは管理人の女性にエリとアーマドは新婚だと偽った。
翌日、②ショーレの子アラッシュが海で溺れてしまう。何とか蘇生するが、③ナジーが子供たちの面倒を見ているよう頼んだエリの姿が見当たらないことに気づく。
当初、一行はエリが溺れてしまったと思うが、直ぐに、黙ってテヘランに帰ってしまったかもしれないとも考える。
そして、エリの失踪とこの旅への参加に繋がる一連の出来事について、互いに非難を始める…。 

後半、エリの兄だと名乗る男アリレザ(セイバー・アバール)が電話に出てから、物語は新たな展開を迎える…。

"嘘"、"隠し事"、"保身"、"凧揚げ"、"女性と結婚"、"女性の名誉"

「永遠の最悪より、最悪の最後がマシ」

登場人物が多くて、誰が誰だか混乱するかも(浜辺から消えるのはエリだが、ポイントとなる人物はセピデーだと押さえておけば分かりやすい)。
前半がもどかしいのは、日本人ならつかないようなウソや隠し事が続くせいもあるだろう。なぜ、いとも簡単にすぐバレそうなウソをついたりや隠し事をするのかと思ってしまうが、実はウソや隠し事は、そうせざるを得ないイラン社会を反映している。
アリレザの質問に対して、エリの"名誉"を守りたいセピデーがイエスと答えるのかノーと答えるのかはみてのお楽しみ。
最後に唐突な結果が提示されるが、真実が曖昧になっている。
監督は、一つの結論にしたくなかったのかもしれない。
仮に、別な結末を考えた場合、登場人物の置かれた状況はどのように異なるなるのだろうか?
何れにせよ、女性が結婚相手を選ぶ権利が制限され、嫌な相手を拒否することが難しいために苦しんでいるイラン社会の現状に違いはないだろう。
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