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配達されない三通の手紙のakrutmのレビュー・感想・評価

配達されない三通の手紙(1979年製作の映画)
3.6
地方銀行の頭取を主とする旧家・唐沢家で起きた殺人事件を描いた、野村芳太郎監督のミステリー映画。エラリー・クイーンの推理小説『災厄の町』が原作であるが、現代の山口県萩市を舞台にして大きく翻案されている。

妻の発病から死までを夫が妹に伝えるという未投函の手紙というアイデアは(本映画そのものの良さではないが)本格ミステリーの匂いがして、とてもいい。でも「配達されない手紙」という表現はだめ。「配達されない」のは「投函はされた」ことを暗示するのでミスリーディングであり、「投函されない手紙」が正しい。

アイデアはいいのだが、エラリー・クイーンの原作が悪いのか新藤兼人の脚本が悪いのかはわからないが、ミステリーとしての出来は良くない。本格ミステリーを期待して鑑賞すると、激しくがっかりさせられるだろう。何と言っても、投函されない手紙の必要性がまったくないのが最大の欠点。なぜこれがアリバイになるのだろうか。この欠点のせいで、全体のストーリーが完全に破綻している。唐沢家の当主(佐分利信)を上手く使えていないのも✕

それよりも、本映画の正しい鑑賞の仕方は、栗原小巻(失踪していた男と結婚する唐沢家の次女)と松坂慶子(次女と結婚した男の妹)の演技合戦を楽しむことだろう。吉永小百合と人気を二分したと言われるアイドル的存在だった(一方で、アンチにはカマトトと呼ばれていた)頃よりも年齢を重ねた栗原小巻が、少し行き遅れ感のある精神的に不安定な女性を見事に演じている。映画とは関係ないが、BS松竹東急で放映されている山田太一脚本の木下恵介アワーのドラマ『3人家族』で、竹脇無我と共演する彼女が可愛すぎる。

一方、野村芳太郎監督の前年の作品『事件』に引き続いて、ヒール役というか汚れ役を演じた松坂慶子の演技もいい味を出している。後ろ向きではあるがヌード姿も披露するなどサービス精神も満点。個人的には松坂慶子と言えば、中学生の頃に歌謡番組でよく見た網タイツで『愛の水中花』を歌う姿なのだが、この曲がヒットしたのが本作の公開年なのである。その当時は女優としての松坂慶子は(『蒲田行進曲』とかあるけど)あまり印象にはなかったが、もっと若い頃の演技も含めてなかなかのもの。BS松竹東急で放映されていた木下恵介アワーのドラマ『思い橋』でも、20歳過ぎながらも最も難しい役柄を堂々とこなしている。
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