杜口

トゥモロー・ワールドの杜口のレビュー・感想・評価

トゥモロー・ワールド(2006年製作の映画)
4.5
この映画は常にこの世界の出来事がたまたまカメラに映っただけですといった感じで、見せられる。これを唐突に起こる死が加速させる。
映るものも現代の科学からさほど進んだものでないし、大勢の人々が物語とは関係なく動いてはカメラから外れてゆく。
だから並みのPOVものなんて目にない程のリアリティがある。

さらにはSFらしい世界観の説明はテレビとかバスの広告ぐらいで、最小限になってる。
これでただの一般人であるクライヴオーウェンと同じく、世界を1人の人間の視点から見てるかのようでさらにリアリティは増してゆく。

その画面には退廃した街並み、檻に入れられた不法移民たちに、破損したダヴィデ像、並ぶ兵隊達や霧の中に浮かび上がる船、食事中にも関わらずゲームに夢中な青年(これ手の動作で動かすってことでいえば、スマホゲーみたいなもんだよなあ。内容もスマホゲー的な簡素なものだし)などなど現代社会から地続きの世界が映される。
設定も新たな人類が生まれぬまま18年経ったという生命の根源的な部分に関わる問題が起きた世界の話。

そういった混沌として様々なことが複雑に絡まりあった状況の中、救いになるのが守るという単純な行動ってのが面白いなあ。

あとロックが地味にたくさん流れてて、特にクリムゾンキングの宮殿が流れるシーンは最高。予言的な歌詞も曲調も混迷した社会にばっちり合ってる。
その直後、窓の外の工場に浮かぶ豚が映るってシーンも、ピンクフロイドのアニマルズのジャケットのオマージュとなっていて、プログレ愛に溢れた作りが個人的には最高。


映画的なというか視覚的な話は相変わらずこの映画研究塾っていうサイトが素晴らしかったのでリンク貼っておきます。
(リンク先はネタバレしてるので注意!)
http://movie.geocities.jp/dwgw1915/newpage104.html

作品のテーマ性については哲学者ジジェクの話が興味深かったので添付。
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm11492610

あと、監督本人の長回しの意図については町山の評が面白かったのでこちらもどうぞ。
https://m.youtube.com/watch?v=SYbEa8bxb7g
杜口

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