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歩いても 歩いてものardantのレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
4.5
ある年の夏、神奈川県三浦海岸にある医院を開いていた原田芳雄・樹木希林老夫婦の家に、次男夫婦と娘夫婦が里帰りした一日を描いた作品である。

この作品の内容には、既視感がある。それは、監督自身が何かで触れていたが、向田邦子の面影のように思える。彼女の作品で何度も観た、息子への思いからなのか、嫁をいびる怖い母親のイメージ、それは昔、加藤治子の役だった(例えば、『思い出トランプ』,1990,TBS)。本作ではその役を樹木希林がまことに上手に演じている。娘役のYOUとのかけあいは楽しいが、何気ない言葉の端々に含む棘が怖ろしい。

別に、何か事件が起こるわけではない。だが、そのことは、我々の日常と非常に近い位置にあり、どこかで、経験したことのようにさえ思えるのである。

溺れた子供を助けるために亡くなった長男と常に比較され、卑屈になっている次男の阿部寛、いびられ役の妻の夏川結衣。彼らは、一泊し、帰っていく。どっと疲れた顔をして。

どこにでもありそうだが、なかなかない日常のなのかもしれない。
私には、是枝裕和監督の最も優れた作品のように思えた。少なくとも、『万引き家族』よりは好きだ。
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