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BIUTIFUL ビューティフルのHIROのレビュー・感想・評価

BIUTIFUL ビューティフル(2010年製作の映画)
3.8
スペインの大都市・バルセロナの片隅で生きる男ウスバル(ハビエル・バルデム)は、妻と別れ2人の幼い子供たちと暮らしていた。 裕福とは到底言えない生活を送っていたある日、彼は“末期がん”で余命が2ヶ月であることを告げられる。
すべての時間を愛する子供達のために生きることを決意するお話。

監督は「バードマン」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。

重くのし掛かるような作品でした。

不法移民に違法な仕事を斡旋して稼ぎ何とか生きてる男・ウスバル。
2人の幼い子供を抱え、その日の生活ですらギリギリの状況。
ボロボロの家の食卓に並ぶ明らかに安そうな魚と砂糖を振り掛けたシリアル。
もうそれだけでこの親子がどれだけ困窮しているかを思い知らされるんですよね。
でもこの親子には確かな絆が感じられるというか。
おねしょについての親子の会話からはとても温かい愛を感じることができました。

余命が2ヶ月であることを知りますます子供達への想いが強くなる。
自分が死んだら誰が子供達の面倒を見るのか?、誰が家賃を払うのか?など現実的で切実な問題が次々とのし掛かるんですよね。
もうこれは本当に胸が痛かった。だってこういう事例って沢山あると思うんですよね。
だからこそ観ていて本当に辛かったです。

ウスバルは不法移民の仕事の斡旋で稼いでいたわけだけど、移民達の事をちゃんと気にかけていて、根はいい人なんですよね。
でも彼は生きるために数々の犯罪に手を染めて来たと思います。
それこそ麻薬売買に関与したりとか。
彼のやっていることは許されることではないかもしれないけど、そうすることでしか生きていけなかったことは紛れも無い事実。
この作品の舞台であるバルセロナは観光地としても有名だし、一見派手なイメージだけど、片隅には普通に生きて行くことすら出来ず、彼のように泣く泣く犯罪に手を染めることでしか生計を立てられない人が沢山いるということを思い知らされましたね。

題名は「BIUTIFUL 」。
完全にスペルは間違っています。
劇中でウスバルが娘にビューティフルのスペルを聞かれて、この間違ったスペルを教えるんですよね。
彼はおそらく貧しくてまともな教育を受けられなかったからスペルを間違ったまま覚えていたんじゃないかと思うんですよね。
そして間違ったまま娘に教えることで娘もまた間違ったスペルを覚える。
貧しい人間はどこまでいっても貧しくて、結局底辺から抜け出すことは出来ないというメッセージがこの題名には込められているのではないかと思いました。

ウスバルは残された時間を懸命に生きた。
やることなすこと全てが裏目に出てしまって、彼の生き様はビューティフルと言えるものではないかもしれない。
でも彼の子供達に対する想いは間違いなくビューティフルなんじゃないかと思います。

要所要所で登場するウスバルの霊能力者描写はあまりにも説明不足でいらない設定に感じないこともなかったけど、父親の死という彼の根底にあるトラウマを上手く説明するには丁度良かったのではないかと思いました。

かなり難しい作品で独特すぎる描写に圧倒されてしまうかもしれないけど、社会の底辺で生きる人の存在を考えさせられる作品でした。



2015-47
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