トッシー

エレファント・マンのトッシーのレビュー・感想・評価

エレファント・マン(1980年製作の映画)
4.1
デヴィッド・リンチ監督作。

病により特異な形状へと
変形した肉体を持つ
ジョン・メリック…

1人の医師との出会いが
その運命を大きく変える

………のか?

それとも彼は
普通とされている人々の
見世物としてしか
生きることを許されないのか…


19世紀イギリスに実在した
「エレファント・マン」

そんな彼をモデルにした
1人の青年の
数奇な人生を描きます。

まさしく124分の悪夢…

…でした。



ううう………
こりゃ、辛い。
…もう、ちょっと、
本当に悪夢…

ちょっと辛すぎて
何と言って良いかわからん。

…しかも、最初にも書きましたが
この映画、実話ベースなんですよ。

だから実際の
「エレファント・マン」
ジョゼフ・メリックを検索し
彼の姿を映した写真を見て

絶句してしまった…

ほぼ、映画の通り。

デヴィッド・リンチ
誇張なし………

…いや、もうね

こんな過酷な現実が
この世にあって
良いんでしょうか…?



内面に秘められた「高潔さ」とか…

しんどい人に
優しくしようとする「善意」とか…

「信頼」とか「友情」とか…

暖かで前向きなエッセンスも
この映画では語られてるとは
思うんですよ。

思うんだけど、
この映画では、僕には全く
その辺 刺さらなかった。

ジョンが体験したであろう
「恐怖」とか「苦悩」とか「絶望」…

そんなあれこれを
想像するとね…

「善意」も「信頼」も「友情」も
精神的な「高潔さ」すら…

それら一切がっさいを
すごく無力に感じてしまう…

無意味とは言わないまでも
あまり、意味がなかったように
思ってしまう…


…またこれ、
デヴィッド・リンチの
創りだす映像が
それを助長するんですよ。

美しさを孕みながらも
暗く、陰湿で、グロテスクな
モノクロの映像世界。

『イレイザーヘッド』的な
「悪夢さ」………が
炸裂しまくってると思いました。

ただし『イレイザーヘッド』は
意味が分からん悪夢やけど
こっちはしっかり意味が分かる。

1本、筋の通った悪夢やからね…

どこにも逃げられないですよ。



そんで、そんな逃げ場なしの悪夢が
「エレファント・マン」を包む
歪でモノクロの輪郭をはみ出して

その外側の世界に
どうしようもないくらい
侵食している気がした。


だから

知能障碍を装っていたことが
分かるあのシーンとか…

劇場で上流階級から
祀りあげられるあのシーンとか…

祀りあげられた後から繋がる
あの結末とか…

色んな解釈はできると思うけど
やっぱりとても、
前向きなものとしては
僕は、受け取れんかった。

「僕の治療は?」
…と言うジョンの問いかけに対する
トリーヴスの返答…

(トリーヴスは何と若き日の
アンソニー・ホプキンス…
若くてカッコ良いけど
その辺もちょっと悪夢的でした
イメージ的に…………)

その時のジョンの姿から想像するに

…おそらく、真の意味で
ジョンが求めていたものを
与えてくれる人は
誰もいなかったんじゃ
ないでしょうか…?

ジョンの孤独を
ジョンの苦しみを
ジョンの憧れを

大好きなトリーヴスでさえも
正確には理解できていなかった…

そんな気がするのよ。


「だったら、
お前ならどうするねん?」

…って監督に
鬼詰めされてる気もするんだけど

自分がジョンだったとしても
トリーヴスだったとしても
どうすんのが正解だったのか?

…なんてやっぱり、
まったく分からん。

自分や、自分の大切な人が
「エレファント・マン」
…でなくて良かった。

そんな下衆な考えしか
思い浮かびませんでしたよね。



…けれどもそれでも

やっぱり
僕は他人から
優しくされたいですな。

…だから
そのためにもせめて

ジョンやトリーヴスのように
他人に優しくありたい。

逃れられない悪夢に
からめとられたとしても
そんなギブアンドテイクの中で
何とか生きてゆきたいもんです。



普通に横になって眠れて
普通に悪夢にうなされる
そんな普通の幸せを
噛み締めながら………

そんな決意を固めたのでした。



でも、やっぱり辛くて苦しい、

この映画!!!


2022-47
トッシー

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