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恋のエチュードのpikaのレビュー・感想・評価

恋のエチュード(1971年製作の映画)
4.0
トリュフォーが死ぬ直前まで手を加え続けていたという今作。コミカルな作品が多い中では珍しい印象はあるがデビュー作から考えるとトリュフォーにとってコミカルさで覆い隠していない本質的な作風はこちらなのかもしれない。

女たらしで優柔不断、無責任不誠実なクソ野郎かよ!な表層の奥で「愛の本質」というものを丁寧に描いた傑作だと思う。
見るたびに様々なものが見えてくるようなスルメ映画かも。

「突然炎のごとく」の男女を入れ替えた構成のドラマで原作者も同じ。
原作者のアンリ=ピエール・ロシェは自身の体験をもとに小説を書いたと言う点や、ロシェの書いたもの全てを映画化し「俺の映画の主人公は全部オレ!」なトリュフォーの人生観や、レオを主演に据えているという点から、トリュフォーの並々ならぬ共感、いや自己の投影で作られた作品なのか、ナレーションはトリュフォー自身なのかと色々勘繰ってみては楽しんでしまう。

一見ドラマをなぞるだけだと「なんだこいつらは」という陳腐なメロドラマチックな展開だが、静かに丁寧に、肉欲も欲望も愚かさも包み隠さない姿勢が奥深い。
レオという役者の力がこれでもかと発揮される、彼でなければ全てが崩れてしまいかねない絶妙な存在感が、上部だけ見て退屈だなと思わせずトリュフォーの意図する本質を浮かび上がらせているように感じる。

愛の常識と無垢で無知故の純粋さが対比となり、愛の形はそれぞれ人によって違うのだと肯定する。
思い込みと願望によって愛し合うように仕向けられた恋と、無意識下で惹かれ合う恋が絡み合う三角関係。
目の前にいることで恋い焦がれる者と会わないからこそ猛る愛、閉鎖され病に侵され男女に無知な者と解放され自由で男女関係のラフさを知っている者と、その愛の認識や価値観の違いが多分に物語る。

肉体的な愛と精神的な愛を分けては繋げて描き、交わることで得るものと失うものの大きさや、愛してるから愛し合うわけではないという「愛という概念」の多様さが物凄い。
「あるがままを愛したい、私のために変わってしまったらそれは愛したあなたではなくなる」は面白い至言だなと思う。
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