クリスマス・イブに一夜限りの再会
見事としか言いようのない作品。映画でないと描けない真実。思い。気持ち。あるいは願い。
伝われ!と祈る。
この作品こそ、クリスマスの夜、貴方に観てほしい。
もしかすると嫌味と思う部分が少しだけあるかも知れない。
しかし、誰も「それ」をこれまで取り上げてこなかった。
後輩に婚約者を寝取られた翔子(中谷美紀)は、腹いせに純白のドレスに身を包み、その結婚式に参加する。その帰り、阪急列車で老婦人時江(宮本信子)と出逢い慰められる。この慰め方が良い。翔子は思わず泣き崩れてしまう。
一方、女子大生ミサ(戸田恵梨香)は、翔子の存在がきっかけでイケメンだけどキレまくる彼氏に車内で暴力を振るわれてしまう……。
老婦人時江が見せた「気持ち、それは『思い』かも知れない」が阪急電車往路15分、復路15分の中で自然と、関わっていく人達に伝わっていく。
大袈裟なことではなく、風のように伝わっていく。本来の人間が持つ大事な芯の部分に。
それが心地よい。
誰もが持っているものだと思う。だから、そこに触れられると思わず、響くのだろう。
年の瀬。この映画を見てそれをもう一度確認してほしい。
ただ、一つだけ残念なことがある。
それはこの映画の中では、元々それを感知していた人たちだけにしか伝わっていないことだ。
私は、それを忘れている人に伝わる場面が見たかった。忘れているのであって、それは誰にもあるものだから。それを少しでも描いて欲しかった。
この映画、宮本信子と芦田愛菜がおばあちゃんと孫という形で、コンビを組んでいる。芦田愛菜はまだ幼稚園児ぐらいの小さな子供だけれど、すでに天才女優の片鱗は見せている。
我々、「メタモルフォーゼの縁側」のファンには、この映画はたまらない。宮本信子が、あの映画のおばあちゃんそのものだから。芦田愛菜がこのあとあんな風に成長するのかと思うと感動する。二人の掛け合いの魅力はこの映画でもしっかり見せてくれる。狩山監督はこの映画を見て、キャストを考えたのかも知れない。そう思うだけで幸せな気分になる。