一人旅

夏の遊びの一人旅のネタバレレビュー・内容・結末

夏の遊び(1951年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

イングマール・ベルイマン監督作。

バレリーナ、マリーの元に届いた一冊の日記によって、忘れ去られていた初恋の記憶が呼び覚まされていく・・・。

“人のアイデンティティーは記憶によって形成される”という言葉を聞いたことがある。
本作でマリーは過去に悲劇的な恋を経験したことで、その負の記憶を消し去ろうともがいた。それはひたすらバレーの練習に打ち込み、自分の周囲に意図的に壁を作ることで果たされた。
でも、人は記憶から完全に逃れることはできない。
マリーの同僚が指摘したように、過去の悲しい記憶を意図的に封じ込めた結果生み出されたマリーは偽りの自分だ。
正の記憶と負の記憶双方を受け入れない限り、自身の真の姿は見えてこない。
偽りの自己の元では、自身が求めるべき目標や未来も描けない。
マリーが記者との新しい恋に踏み出せずにいることや、彼女の心が虚無感に支配されているように感じてしまうのはそのためではないだろうか。

映画の終盤でマリーは化粧を迷いなく落としきる。どこか吹っ切れたような表情が印象的で、鏡に映る自分自身を見つめる目線はしっかりと定まり、確信的だ。
過去を受け入れたマリーは偽りの仮面を捨て、ようやく未来に目を向けるのだ。
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