TAK44マグナム

アコークローのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

アコークロー(2007年製作の映画)
3.3
キジムナー、関係ねえ!


「アコークローとは沖縄の言葉で「夕方と夜の間」という意味。
それは超自然的な現象が多くみられる逢魔時でもある」

豊かな自然と、ゆっくりと流れる時間が魅力的な沖縄という地を舞台にしたオカルトホラー。
開放感、そして情緒あふれる沖縄の家屋や、澄んだ風景、紫色に沈んでゆく空など、スピリチュアルな内容とも相まって心惹かれます。
主演は田丸麻紀、忍成修吾。
ちょい役で清水美沙や村田雄浩が友情出演。


姉の子供を預かり中に死なせてしまった田丸麻紀は、沖縄で出会った忍成修吾と暮らすために東京を逃げるように離れます。
気の良い友人にも囲まれ、生き返るようなスローライフを満喫する田丸麻紀だったのですが、忍成修吾の親友の元嫁が気が狂ったかのようにカマで斬りつけてきて軽くスプラッターホラーな状態に!
もみあった時に、元嫁にカマが刺さり死んでしまいます。
正当防衛とは言え殺人者の烙印をおされたくない忍成修吾たちは、死体を沼に沈めることに。
しかし、それからというもの、田丸麻紀以外の男たちには血まみれで睨む元嫁の姿が一日中見えるようになるのでした。
仕方なく、事情を隠してユタ(除霊師)である小田エリカに除霊を依頼するのですが・・・・・


「世にも奇妙な物語」のように短い尺でも出来そうな内容を97分の尺を使っているので間延びしているのかと思いきや、意外とテンポも悪くなく、幽霊(か、どうかはハッキリしない。物理的に存在しているような描写もあり)も中盤からは出ずっぱりなので、それほど退屈しないですみました。

恐怖演出はオーソドックスながら上手。
ワチャワチャと騒ぐのは極力控えた、和式なスタイルです。
いくつか印象的な画作りにハッとする部分もあり、沖縄の美しさを切り取ったカットも癒やされる反面、何だか分からない恐ろしさも感じさせてくれます。

お話は単純で、殺した相手に恨まれて自滅してゆく、それだけ。
そこに、沖縄に伝わる妖怪キジムナーを絡めて、冒頭のシークエンスが伝える通り、人間の罪悪感がもたらす精神的苦痛を描いているのだと思うのですが、冒頭で「罪悪感がマボロシをみせて自分自身を苦しめる」と結論づけているのに、終盤では完全に幽霊が存在してしまっている為、どっちつかずの曖昧さばかりがあとに残ってしまう結果に。
元嫁たちの過去についての説明不足もあるので、状況が分かりにくかったりするのも難点でしょう。

しかも、キジムナーは関係ないですよね、これ。
キジムナーとは、ガジュマルの木の妖精とも言われる妖怪で、赤い髪の毛が特徴みたいです(水木しげるの描くキジムナーは赤くないし、そもそも髪の毛が無い)。
田丸麻紀がいきなりキジムナーの伝説に強く興味をもつのも分かり辛いというか、あまり理解できませんでした。
東京にいられなくなった寂しさからキジムナーに共感したのでしょうか?でも、恋人はいるし、周囲の人々はみんな優しいし(これについては安っぽい関係性で好きじゃないと言及していましたが)、別にそこまで寂しい環境にいるわけじゃないと思うのですけれどね。
結局のところ、元嫁がおかしくなったのはキジムナーのせいではなくて、化け猫に取り憑かれたからなんじゃないのかな。
沖縄の風習で、猫が死んだら袋に詰めて木に吊るすというのがあるらしく、そうすることによって猫が化けるのも防ぐんですって。
元嫁が吊るされた猫を触っていたら何か得体の知れないモノに憑かれたので、あれは化け猫なんでしょう、たぶん。
元嫁が髪の毛を真っ赤に染めているのでキジムナーと関連づけられると言えなくもないですが、除霊する小田エリカも「キジムナーかどうか分からない」と言うし、キジムナーなんて放っといて最初から猫を吊るす風習メインで良かったんじゃないでしょうかね。
最後に幽霊が悪霊をゲボゲボと吐き出しますが、なんとなく手足の無い猫っぽい形だし。
それを食べて除霊完了っていうのには驚きましたが。
あんなの食べたくないよ(汗)!
ユタ役の小田エリカは正統派の美人さんで、野島伸司のドラマ「世紀末の詩」ではオールヌード(現在の地上波放送では無理でしょうね)になっていました。
チッパイがちょいと残念でしたが、暖かさと冷たさが同居したような雰囲気が中々に魅力的な女優さんですね。

そういえば、冒頭、グラビアやバラエティ番組で人気をはくした手島優が出演しています。
なにげに、こちらはボリューミーな胸がやっぱり目を引きます。
この手島優が、見えるはずのない自殺した元カレに付きまとわれて弱るという冒頭が、実は一番怖かったので掴みはオッケーでした。

救いがあるような無いような着地点は何処か朧げで、本作が沖縄のPRになっているのかどうかも微妙ですが、夏に涼む田舎の怪談話を聴いているような感覚をおぼえました。
おどろおどろしさしさ一辺倒では無い語り口も作品にあっていたかと思います。

正当防衛なのに事件を隠そうとする理由が、狭い地域社会性にあるというのも興味深いし、ついにキレた忍成修吾の「カマ振り回してきたお前が悪い」という言い分に、「そりゃそうだよな」と思わず頷いてしまう・・・そんな映画であり、沖縄だっていうのに水着にもならない田丸麻紀や手島優に落胆する、そんな映画でもありました。


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