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女殺油地獄の教授のレビュー・感想・評価

女殺油地獄(1992年製作の映画)
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映画冒頭から楽しい。画面に映し出される素晴らしいセットと次々に映る俳優たちの顔。画面の質感のすべてが「ああ、日本映画だ」という安心感と、安定感と。
時代劇というファンタジー空間の居心地の良さがたまらない。

西岡善信の美術。日本家屋の汚しの美学。黒光りする床だったり上がり框だったり。フィルムに焼き付けられた光景の美しさが筆舌に尽くしがたい。

そして、原作となっている近松門左衛門の基本設定だけを引き継ぎ、迷える若者の青春だったり、大人の虚しさだったり、それを五社英雄の真骨頂である男と女、あるいは女と女のドラマとして濃密に描き上げる。
だけでなく、遺作となった本作はまさに、精魂込められた繊細さと、丁寧さで過去のフィルモグラフィとは比較にならない、静謐で、優雅で、しかもミニマムに描いていて文句がつけられない。

もう、とにかく画面が、演技が、いちいち気持ちがいい。
ヌボーッと虚無感を漂わせたり、大人に翻弄されて頑なになったうんざりとした怒りの表現だったり、若き堤真一のベストアクト。
そして、藤谷美和子もこれまでちっとも好きじゃなかったのに、本作で一気に好きになってしまった。
そして、何より樋口可南子。
美しさと怖さと、弱さをしっかりと表現し、何より破滅的なエロスと、生き延びていく強かさと、破滅を誘発する狂気、など、本当に様々な表情、感情を見せつけてくれる。

2時間。
この映画のどのカットも見惚れるほど美しい映画。
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