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インフィニティ・プールの教授のレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
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アンドリュー・ヘイ監督の「異人たち」に引きずられる形で、本作は2024年公開作品のベスト1でいいと思った。

「書けない作家」のジェームズ(アレクサンダー・スカルスガルド)のウジウジしモヤモヤした問題は、僕自身の自己投影。
ありがちな「存在の耐えられない軽さ」に対して「重過ぎる自意識」の病。

そこに入り込んでくるガビ(ミア・ゴス)という外見を含めて、あまりにもベタで直球の「そういう女性には一目惚れしてしまう」という脆弱さも自己投影。

今時「女は娼婦で菩薩である」というようなテーマで、男性の自己破壊的成長をこのようなシュールなジャンル映画仕立ての映画で観ることができる至福感。

しかし常々思っている「女性はひとりでも生きられるけれど、男性は女性に承認されないと生きていけない」という男性の性の厄介さ。
「性差」による抗いようのない未熟さと、その未熟故の成長プロセスをこれでもかと追い込むテーマ性と作劇に妥協がない。

その上で、ジャンルホラーとしてのプロットの先の読めなさも秀逸で、父親譲りと言ってもいい、ある意味では怪奇でシュールなサスペンスホラーかと思いきや、一方でファシズムによる人権問題や権力の腐敗についての告発かと思いきや、富裕層の醜悪さを告発する社会派映画になりかけながらも、しっかりと俗なエロスがあり、やがて個人の救済のドラマに転換する射程の広さが素晴らしい。

全ての権力や社会の腐臭は捉えつつ、その社会を形成しどこまでも呪縛を抱えて孤独になり、些事に囚われ人生を棒に振りながらも救済に焦がれるという真っ当なドラマをしっかり変な映画に仕上げ、且つエンターテイメントとしてのバランスに着地しているブランドン・クローネンバーグは見事な監督だと思う。
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