ひれんじゃく

光の旅人 K-PAXのひれんじゃくのレビュー・感想・評価

光の旅人 K-PAX(2001年製作の映画)
4.0
自称宇宙人の謎おじさんが突如として現れ…というワクワクする冒頭に始まりずっと画面に釘付けになった。とにかく画面作りが美しい。そして凝っている。マークが仕事にかまけていることを「娘がピアノを弾いているところをため息混じりに見やりドアを閉じる」っていうたったそれだけの仕草で見せて来たのに唸った。以下ネタバレ。





















冒頭で初対面のプロートとマークがガラス越しに重なり合う演出が、まさか「プロートの過去を危うくマークも繰り返しかけていた(もしくは日常が破壊されるとは思いもよらず家族を蔑ろにするマークと、日常がある日突然破壊されて1人残されたプロート)」ことの表現だったとは。ヤバすぎて震えた。
マークの机の上にある煌めくモニュメントの光の表現とかも凝っててとてもよかった…………………今回ばかりは邦題が大正解を叩き出している。そしてプロートが旅立つ前日にロケットマン流すのは反則………ロバートの過去の話を見せられた後だから余計に泣いてしまった………"And I think it's gonna be a long, long time/
'Til touchdown brings me 'round again to find"のまんますぎて…………しかもこれプロートだけじゃなくて彼に治してもらった患者や家族を蔑ろにしてたマークにも通ずるのが深すぎる。

冷静に考えると急に出てきたおじさんが自分はK-PAX星から来た宇宙人だ!と名乗ったことに始まりずっと我々観客はマークと共に真相を追い求めることになるんだけど、その緊張感がずっと続いているのがすごい。

おそらくロバートは昔から(父親が死んだ頃から?)心に病を抱えた人間で、過去の苦痛を自分なりに和らげて納得させるためにプロートという宇宙人(別人格)をその身に降ろしたんだ(ので彼が星に帰って消滅したあと抜け殻のようになってしまった元の人格が残された)と個人的には思っているのだけど、もはや人間だろうが宇宙人だろうがどうでもよくなってくる。それほどまでに救いの力が強い。プロートが持ってたであろう鉛筆にも救済だかなんだか彫ってあった気もする。光の持つ「希望」「救い」の面を映像のあらゆるところで出してきてとにかく表現やテーマとして一貫しているし、主治医が患者と向き合ううちに救われていくところが素晴らしい。心の病に疎いのでそんな簡単に治るものなのか?とは思いはしたものの。
でもそうか、ベスはいなくなったしな……………………

「K-PAX星では家族という概念がなく、人々の絆が重要視されない」「だから自分1人がいなくなったところで誰も気づかない」「でも地球の人々は自分が去ってもずっと覚えていてくれるだろう」って言ってたところも、過去の出来事を踏まえて考えると猛烈に苦しくなる。ロバートなりに突然の不条理を咀嚼してなんとか飲み込んだ結果がそれだと思うと。マークが始まりの事件にたどり着いて警官から話を聞きながら出来事を鮮やかに思い浮かび上がらせてるときマジで涙が堪えきれなかった。とくにブランコとスプリンクラーのくだり。スプリンクラーはまだしもブランコを押すのが上手いってところがここに生きてくると思わなかった。あそこの見せ方がうますぎる。

今を大切に生きようって何度も思ったことはあるけど、この作品のそれは重みが違いすぎる。でもだからといってただのフィクションと化すことはなく、心の持ちようでどうにでもなれるよっていう優しいメッセージを優しく教えてもらえた感じ。もちろん常にそれが当てはまるわけではないけど(特に鬱病の時)。どうやってこの辛くて苦しい現実に納得して生きるかという話なのかな。人それぞれではあるだろうけど、この映画で描かれた美しい光の在り方はその問いへのひとつの答えであり、救済されていく人々をみていくうち私も救われた気持ちになった。
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