ひれんじゃく

十二人の怒れる男のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
4.3
法廷を見上げるようなカメラワークからの、中に入って下へとレンズを向ける動きで渦中の12人が部屋へと入っていく様子を映してるところでもう痺れた。流れがあまりに美しくて無駄がない。以下ネタバレ。





















そのほかにも死刑反対頑固おじさんが必死に反論している途中途中で彼をじっと見つめる男たちのカットを挟み込み圧力をかけている様子や、だいぶ有罪派が押されてきて鼻風邪爺さんが熱弁を振るってるのにひとりまたひとりと席を立って行ってしまうところ・それでいて無罪言い出しっぺの一人が話し出した途端に立ってた人たちがスッと着席しだす様子などとにかく映像表現が上手い。

そして部屋からほぼみんな一歩も出ないのにこんなに面白いのがすごい。裁判の様子を私たち観客はほぼ見てないから、それを利用してキャラクターたちの口から「討論の焦点」という体で詳細が語られていくアイデアも面白い。説明臭くならないしなりようがない。私たちは一連の裁判の様子を全く見てない状態から始まるので。12人もいるのにみんなキャラ立ってて印象深いのもすごくないか?しかも各々の名前は出ない。これすごい。名前がなくてもキャラクターたちが印象に残るって。最初は早く終わらせて帰ろうぜの雰囲気だったのがいつのまにかほとんどの人たちが議論に熱心になる様が非常に引き込まれた。人の命がかかっているのなら疎かにしてはならないという無罪言い出しっぺおじさんの熱意がだんだんと他の人たちにも伝染していくのがよかった。こっちまで机に前のめりになって聞き入ってしまいそう。

何度も言うけど12人のおじさんがほぼ同じ場所でずっと喋ってるだけなんだよな。それなのにそれぞれの個性が際立ってるしいつのまにか議論に引き込まれて少年は果たして有罪なのか?はたまた無罪なのか?と考えている自分がいる。
こちとら観客は裁判を聞いてないので詳細はこの12人の陪審員の口から語られることが全てなんだけど、それなのに謎解きっぽくなっていくのも本当すごい。物語における謎解きって前提となる謎の全貌がはっきりしてて、その謎がどういう過程を経て生まれてきたのかも見せてくるパターンしか今まで見たことなかったので、キャラクターの口から謎が語られキャラクターの反論によってその謎が解き明かされていく、本当に「密室劇」でここまで閉じた空間で限られた人間と情報量でこんなことができるのヤバすぎる。老人の歩くスピードと列車通過時に叫び声を聞いたくだりとメガネの話がマジですごいと思った。全員天才でしょ。語彙力がないので口を開くとすごいとしか言えない。

最初は無罪派1人vsほか全員みたいな構図で、有罪派11人が圧をかけてる感じだったけど最後で権力像がひっくり返った状態で同じ構図を見せてくるのがまた面白い。そう、なんだかんだで無罪派も残りの1人に対して無罪にしろよって圧力はかけてるんだよな。そこが興味深い。どんでん返し系が好きなもんでここまで議論を尽くしたものの結局は陪審員たちの妄想で、実は少年が本当に有罪だったらどうしようとか考えちゃう。しかしそれは野暮というものだろうな。あの晴れ上がった空の下を歩く疲れ切った男たちの背中を見るに。
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